2018 Fiscal Year Annual Research Report
The reception and the critique of Spinoza's philosophy in the German Enlightenment
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16K02153
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Research Institution | Kobe City College of Technology |
Principal Investigator |
手代木 陽 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80212059)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 可能性の補完 / 内在的様態 / 実体の唯一性 / 因果系列の絶対的必然性 / 目的性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はドイツ啓蒙主義とりわけクリスティアン・ヴォルフにおけるスピノザ哲学の受容と批判の解明を目的としている。ヴォルフの哲学は矛盾律と充足根拠律に基づく「可能性」の哲学であり、存在者(ens)は「可能なもの」としてその本質によって成立する。一方現実存在はその可能性からは導出できず、何かが付加されることで成立するがゆえに「可能性の補完」と称される。ヴォルフによれば現実に存在する事物は個体であるが、個体は可能的世界において汎通的に規定されており、現実存在は存在者の本質にその何性を規定するいかなる規定をも付加することのない特殊な「様態」である。ヴォルフは現実存在を概念規定における付加を含まない「内在的様態」と見なしたドゥンス・スコトゥスの思想を受け継いでおり、現実存在を本質に何らかの規定を加える「補充」ではなくたんなる「補完」と称したのもこうした事情を踏まえていたためと考えられる。 ヴォルフのスピノザ批判の要点は、第一に実体の唯一性の根拠となる「同じ本性あるいは属性を持つ二つあるいは複数の実体はあたえられない」という『エチカ』第一部の定理5をスピノザが証明していないという批判である。しかし定理5は一つの属性のみを持つ実体が複数存在するという仮定の下に立てられた定理に他ならず、実体の唯一性の証明に必要なのは「二つの実体はどれほど多くの属性を持とうとも、同じ属性を持つことができない」ことの制限なき妥当性なのである。第二に因果系列の絶対的必然性を証明していないという批判であり、神の本性から必然的に生じるのは「可能なもの」の本質であり、複数の可能的世界から選ばれたこの世界の因果系列の必然性は仮定的に過ぎないという批判である。しかし充足根拠律の普遍妥当性を前提している点でヴォルフとスピノザの間に本質的な差異はなく、むしろ事物の因果性が目的性によって補われるとする点にヴォルフの独自性がある。
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Research Products
(2 results)