2016 Fiscal Year Research-status Report
インド・チベット密教術語集成構築のためのタントラ注釈文献の綜合的研究
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16K02165
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
菊谷 竜太 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (50526671)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 『アームナーヤマンジャリー』 / アバヤーカラグプタ / プトゥン / 『ヴァジュラーヴァリー』 / 『サンプタタントラ』 |
Outline of Annual Research Achievements |
人文学の分野における情報の共有化は他の研究諸領域と同様に急務であるが、インド学・仏教学の領域においては、一次資料となる原典の写本情報と共に信頼すべき校訂・訳注に基づいた「術語集成」の構築が最優先事項の一つと言える。本申請研究課題は、インド密教におけるいわゆる「百科全書的」的な密教注釈文献『アームナーヤマンジャリー(口伝の花房)Amnayamanjari』の校訂・訳注作業を通じて得られた綜合的な情報を国際的なサンスクリット・チベット語語彙集成プロジェクト(ITLR)と連結させることによって「インド・チベット密教術語集成」を構築するものである。 初年度となる2016年度は5月・7月に国内の学術大会・研究会において研究発表を行った。5月の印度学宗教学会においては、第1章の「要義」を中心に『アームナーヤマンジャリー』のタイトルである「アームナーヤ(口伝)」と「マンジャリー(華房)」がぞれぞれ『サンプタタントラ』とは異なる内容構造をもつことを指摘し、そのために本来の『サンプタタントラ』の章立てとは異なるナンバリングをアバヤーカラグプタが行っていることを指摘した。この立場は他の二人の注釈者インドラボーディ・ヴィールヤヴァジュラとも異なる。同年9月にはプロチダ(イタリア)においてナポリ東洋大学が主催するワークショップに参加し、自身が担当するITLRのエントリーについて意見交換を行った。これらの成果は原稿に纏め、順次発表していく予定である。『アームナーヤマンジャリー』第1章のチベット語訳校訂・訳注作業については、校訂作業が現在ほぼ完了しつつあり、初年度の後半はプトゥンの『広注』とあわせてさらに精密に異読の収集に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在研究を進めている『アームナーヤマンジャリー』は、インド仏教歳晩期に活躍した 顕密双修の学頭アバヤーカラグプタによって著された『サンプタタントラ』に対する綜合的注釈書であり、同じくアバヤーカラの手になる大部の曼荼羅儀軌『ヴァジュラーヴァリー』とは相互補完的な関係にある。同書の重要性は十分に認識されながら、記述の多様性と大部のテキストであることから、その内容については全体の構造とあわせて研究が進んでいない状況にあった。初年度となる2016年は同書第1章の「要義」の記述に基づき「アームナーヤ」と「マンジャリー」という二つのキーワードに着目し全体の構造を明らかにした。その成果は2度の国内学会で発表し、原稿のかたちでまとめている。また一部の語彙情報をITLRのエントリーに追加した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度となる2017年度は1)『アームナーヤマンジャリー』第1章の「要義」の記述にもとづき2016年度に明らかにした「アームナーヤ」「マンジャリー」という二つの構造に中心に『アームナーヤマンジャリー』全体の目次作成を進める。作業の中心は、チベット語訳を中心に進めるため、根本タントラの『サンプタタントラ』、アバヤーカラグプタによる他の注釈の『アバヤパッダティ』も随時参照し、想定されうるサンスクリットの語彙情報、断片収集に努める。2)1)の作業と並行してプトゥンの『広釈』を対照し『広注』に登場するさまざまな口伝・教説の系統を解析・整理していく。得られた情報・出典元は固有名詞とあわせて整理する。3)1)・2)の作業時に得られた語彙情報は随時にITLRへと反映させる。定期的に開催されるハンブルグでのITLRの会議に参加し、情報交換を行なっていく予定である。また、2017年度には2度の国内学会での研究発表に加えてハンブルグ大学における研究発表を予定している。
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Causes of Carryover |
国際共同研究をハンブルグ大学のHarunaga Isaacson教授と実施するため、2016年度の予算の一部を次年度に繰り越し、2017年度にハンブルグ大学に渡航・国際研究を実施するため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ハンブルグ大学のHarunaga Isaacson教授は、『アームナーヤマンジャリー』の著者アバヤーカラグプタを専門とされており、同書の校訂・訳注研究を進めるためには同教授の協力が不可欠である。2017年度中にハンブルグに渡航し、滞在旅費として使用する予定である。
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