2017 Fiscal Year Research-status Report
インド・チベット密教術語集成構築のためのタントラ注釈文献の綜合的研究
Project/Area Number |
16K02165
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菊谷 竜太 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (50526671)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 『アームナーヤマンジャリー』 / アバヤーカラグプタ / 『サンプタタントラ』 / プトゥン・リンチェントゥプ / 『サンプタ「広注」』 / 『ヴァジュラーヴァリー』 / 『ニシュパンナヨーガーヴァリー』 / 密教注釈文献 |
Outline of Annual Research Achievements |
アバヤーカラグプタ(11ー12世紀)の百科事典的注釈書『アームナーヤマンジャリー』ならびにその周辺文献について、ハンブルク大学インド・チベット学科(アジア・アフリカ研究所)のHarunaga Isaacson教授と連携し、梵文原典の校訂・訳注研究を進めている。海外における連携研究期間はハンブルグ大学アジア・アフリカ研究所であるが、ゲッティンゲン大学をはじめ周辺の研究機関においても梵文写本資料を積極的に収集し、より精密な解析作業に繋げている。 2017年3月31日に渡航し、本2017年度はチベット語訳にもとづき『アームナーヤマンジャリー』本文と同書にもとづいたプトゥン・リンチェントゥプの『サンプタ広注』との関係を精査する予定であったが、順調に作業は進められていた。得られたその成果の一部は、2017年11月の日本密教学において発表し学術論文のかたちにすでに纏めている。 しかしながら、渡航して間もない2017年5月に『アームナーヤマンジャリー』の梵蔵バイリンガル写本が新たに発見され、申請者を含めたインド密教の領域における研究状況は一変した。『アームナーヤマンジャリー』の梵文断片を回収しながら「インド・チベット術語集成」ITLR(Indo-Tibetan Lexical Resource)を構築するという作業は大幅に見直すこととなり、従来使用することのできなかった梵蔵バイリンガル写本を軸に据えることで、早急に梵文原典にもとづいた新たな研究計画の再構築をする必要に迫られた。加えて申請者は2017年10月より国内における研究拠点が東北大学より京都大学(白眉センター・文学研究科)に移ることとなり、渡航計画の一部見直しも迫られた。 こうした問題のなかで、国内外の研究者と連携した研究の再構築はすでに構築し終えることができており、新たな計画のもと現在は研究の推進を進めている状況にある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アバヤーカラグプタ(11ー12世紀)によってなされた百科事典的注釈書『アームナーヤマンジャリー』の梵蔵バイリンガル写本が新たに発見されたことによって、当初に予定していた研究計画について大規模な変更・修正が必要になった。同書は中国において完本梵文写本の存在が報告されていたものの、公開はされておらず、従来はごくわずかの梵文断片しか使えない状況にあった。 新たに発見された梵蔵バイリンガル写本は、おそらく二揃いあったバンドルの前半部であり、全体としては半分の分量ではあるが、本研究課題の中心となる第1章をはじめ、国際共同研究の課題((国際共同研究強化)・15KK0033)の内容と直接つながる曼荼羅理論の記述部分「究竟次第の前提となる生起次第」(第7章ー第12章)全体が含まれることから、新出梵蔵写本の解析は本研究課題の達成に不可欠なものと言える。 申請者は、新出資料が見つかる以前より、チベット語訳にもとづき同書の解析を進めてきたものの、新たな梵文原典から得られる情報はチベット語訳ならびに梵文断片と比べて膨大である。また、同書はアバヤーカラグプタの著作中ないしインド密教典籍のなかでも極めて分量が多く、精密な校訂・訳注を制定するには国内外の研究者との連携が不可欠である。このような理由から、同書が発見された2017年5月以降すぐに資料を入手し、連携して同写本の内容解析に当たってきたが、こうした研究の再構築にともなって数ヶ月単位での作業の遅れが出ている状況である。 また、海外の連携研究機関への渡航計画についてであるが、2017年の10月に研究拠点が東北大学から京都大学白眉センターに移ったことによって生じた異動にともなう諸手続きないし規定によって、予定していた渡航期間の三分の一の期間を完了するにとどまった。この時間的な期間変更の問題については、本年度に調節を行うことで取り戻す予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
『アームナーヤマンジャリー』の新出梵蔵バイリンガル写本の発見は、密教の分野のみならず、インド仏教あるいはインド・チベット学の領域全体において非常に重要であると言える。現在、国内外の研究者が連携した国際プロジェクトが立ち上げられ、同書の研究が進められている。その主要な拠点の一つがハンブルク大学であり、申請者は『アームナーヤマンジャリー』第1章を中心に連携研究機関と協力することで研究の推進に当たっている。 新出資料の発見によって必要となった研究計画の修正・再構築については、基本的な計画を定めることがすでにできている。再構築によって、従来梵文原典が利用できなかった部分についても梵文原典が対照できるようになり、さらに国内外の研究者の連携・協力のもと精密な解析をしうる研究環境もすでに構築し終えている。また、東北大学より京都大学への異動によって生じた渡航期間の変更ないし作業期間の遅延については、渡航先の研究機関とも相談し、変更した期間分を本年度以降に振り替える予定で調節を進めている。 再構築された計画における作業手順もまた原典の解析・校訂と訳注の制定であり、当初予定していたものと基本的には変わらないが、主対象となる資料が蔵訳から梵文原典に変わったことに加えて新たにもう一つ蔵訳が加わったことで、資料の量としては少なくとも従来の倍以上になることが予想される。したがって手順の効率化ならびに他の研究者と連携して作業が重複しないよう細心の注意をはらって研究を推進していく。 すでに申請者が担当する第1章については梵文全体の翻刻を終えており、新出資料と合わせて蔵訳との対照作業を進めているが、できるだけ早く『アームナーヤマンジャリー』本文の校訂・訳注作業を終えて、プトゥンの『サンプタ「広注」』の作業に移りたい。
|
Causes of Carryover |
2017年10月に東北大学より京都大学(白眉センター・文学研究科)の異動に伴って、従来の渡航計画の一部変更が生じた。変更分については所属ないし海外の受入機関と相談し本年度に執行できる予定である。
|