2018 Fiscal Year Research-status Report
韓国における公的な死者顕彰・慰霊システムの形成に関する研究
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16K02182
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
田中 悟 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (90526055)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 現代韓国 / 葬墓文化 / 死者 / 顕彰 / 慰霊 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦死軍人・殉職公務員にとどまらず、独立運動家・民主化運動家・社会貢献者など、多種多様な経歴を持つ人々を取り込み、今もなおダイナミックな変容を見せている現代韓国の「公的な死者顕彰・慰霊システム」に注目し、宗教学的かつ政治学的な分析を加えることを目指すものである。具体的研究項目は、(1) フィールドワークを通じ、公的な死者顕彰・慰霊の変容とその実態について明らかにする、(2) そうした変容にともなって生じる社会的なコンフリクトの動向分析を行なう、(3) 現代韓国社会における「公的な死者の顕彰・慰霊」をめぐる議論が蔵する含意についての読み解きを進める、の3点に集約される。 まず、資料収集・フィールドワークについては、2018年8-9月にソウル特別市の他、仁川・大田・坡州の各市において、葬墓文化および韓国ナショナリズムに関連する施設の視察および調査を実施した。また、同年12月から翌2019年1月にかけては釜山広域市および大邱広域市・慶尚南北道各所を訪問し、葬墓文化関連施設の現地調査を行なった。 これらの調査に基づく研究成果の一部は、2018年8月、大谷栄一・菊地暁・永岡崇編著『日本宗教史のキーワード―近代主義を超えて』所収の拙論「韓国葬墓文化の変容」として公刊された。この論文は、本研究の基盤となる現代韓国「葬墓文化」に関する論点の整理と、新たな視角の提示を試みたものであり、現代韓国における「公的な死者顕彰・慰霊システム」研究のための基礎となる業績として位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から予定されていたフィールドワークおよび資料収集については、全体として順調に進められている。また、調査結果およびそれをもとにした考察についても、年度内に一部の成果が公刊され、次年度以降にも公刊予定の研究成果が複数控えている。 以上の理由から、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と評価するのが妥当であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の対象である現代韓国の「公的な死者の顕彰・慰霊システム」は、現在進行形で形成されているダイナミックな事象であるため、継続的なフィールドワークおよび資料・情報の収集は必須である。そうした活動の継続の一方で、今後は下記のテーマに沿った考察と研究成果の公表を進めていく予定である。 (1) 「公的な死者の顕彰・慰霊」に関する現状の把握: 現代韓国の「公的な死者の顕彰・慰霊」の現状、具体的には「国家は、いかなる死者を、どのように顕彰・慰霊しているのか」という点についての考察を引き続き進め、その成果を学術的にまとまった形で提示する。 (2) 「公的な死者の顕彰・慰霊」をめぐる認識の動向把握: 政権交代を経て、韓国国内において依然として意味を有している進歩/保守といった政治的対立構図における論争的議論を参照しながら、「死者の顕彰」をめぐって両者の矛盾が問題化する過程に注目し、現代韓国のナショナルアイデンティティに対する批判的な考察を継続的に進め、新たな論点を提示を試みる。 (3) 「公的な死者の顕彰・慰霊システム」と韓国内のナショナリズムの動向: 「国立墓地という形を取ったナショナリズムの称揚が、歴史的にいかなる意味を持ち、現状としていかなる対立や矛盾をはらみつつ、総体としてどのように機能しているか」という問いを設定して、これに一定の回答を与え、なお未解決の論点について整理を試みる。
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Causes of Carryover |
研究代表者が公務多忙のため、計画当初の予定に比べて研究活動が年度をまたいで後ろ倒しになるものが生じた。また、研究成果の公刊スケジュールについても、編集上の都合によって年度をまたいだ遅れが生じており、それに連動した研究活動にも若干の遅れが生じている。 ただし、調査研究や成果発表そのものは全体としておおむね順調に進展しており、本年度に予定していた一部のフィールドワーク、および研究発表については、次年度以降に繰り越して順次実施するものとする。フィールドワークや研究発表の成果を踏まえた調査研究を今後さらに進めていくことで、本課題に関する研究考察とその成果の公表が次年度以降よりいっそう進展することも見込まれる。
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Research Products
(1 results)