2017 Fiscal Year Research-status Report
近世社会における種姓的構造の総合的研究 ‐近世被差別民の浄土真宗信仰を通して‐
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16K02192
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Research Institution | Himeji University |
Principal Investigator |
和田 幸司 姫路大学, 教育学部, 教授 (40572607)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 種姓観念 / 浄穢観念 / 浄土真宗 / 近世身分 / 被差別寺院 / 士農工商 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度からの文献収集と検討を継続して行った。特に、三重県関係史料、和歌山県関係史料の収集を行い、浄土真宗寺院史料の精査・分析を行った。注目されるのは伊勢国における被差別寺院の上寺の身分上昇をめぐる本寺である西本願寺、京都在住の寺院、伊勢国周辺寺院の社会的な対応関係である。被差別寺院門徒の上寺であることが、近世社会に定置している「浄穢観念」「種姓観念」によって、どのような社会的差別を生んだのかを分析することができた。具体的には、西本願寺内における「穢寺」であるか否かの騒動を、在地史料と本願寺史料の双方から分析し、社会的差別の要因を分析した。 次に、近世における「士農工商」観を実証的に明らかにした。昨年度に検討した西川祐信(1671-1750)の描いた『絵本士農工商』、西川如見(1648-1724)の著作『町人嚢』『百姓嚢』によって、江戸時代中期の近世人がそれぞれの身分、特に町人身分が、どのような種姓観をもって生きているのか、どのような分際意識をもって生きているのかを論考としてまとめた。序列的な「士農工商」観の払拭に資することができた。 最後に、近世の「種姓観念」「浄穢観念」による社会的差別の状況を、近世身分制研究の蓄積と被差別寺院史研究の蓄積から総合的に考察した。その結果、中世以降の「浄穢観念」による社会的差別が、宗旨人別帳や本末帳の別帳化によって、近世の種姓的特質を有するようになる点、また、社会的差別が種姓的特質を有するがゆえに、職分を忌避していく状況が明らかとなった。この点は、現在、論考としてまとめ、投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、(1)被差別寺院の本末関係の種姓的特質を明らかにする、(2)身分外身分としての被差別寺院の位置を明らかにする、(3)種姓的構造の社会的基盤を明らかにする、(4)近世被差別民にとっての宗教の意義を明らかにする、ことをねらいとしている。今年度は前年度からの文献収集と検討を継続して行い、データベースの充実を図ることができた。さらに、昨年度に収集した宗旨人別帳の精査、ならびに、被差別寺院の上寺と本寺である西本願寺との間で起きた「穢寺」認識をめぐる一件史料の分析を行い、(1)と(2)について、本末関係の種姓的特質と身分外身分としての被差別寺院の位置を明らかにすることができた。今後は(3)と(4)についても考察を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は収集した史料群をもとに、種姓的構造の社会的基盤を明らかにしていく。特に、本寺である西本願寺によって、「穢寺」とされた被差別寺院の上寺の特質(住職が被差別身分出身であるか否か、寺地が被差別地であるか否か、下寺に被差別寺院を有するか否か、下寺に一般寺院を有するか否か、など)を総合的に検討し、種姓的構造の社会的基盤が百姓・町人の〈共同体〉に存在したことを明確化する。以上の調査や考察をふまえて、課題(3)種姓的構造の社会的基盤、(4)近世被差別民にとっての宗教の意義、を明らかにしていく所存である。
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