2016 Fiscal Year Research-status Report
スペインにおけるブラジリアン・ディアスポラの宗教実践に関する実証研究
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16K02193
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
山田 政信 天理大学, 国際学部, 教授 (70434975)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プロテスタント教会 / ブラジル / スペイン / 入信 / 観光 / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
スペイン(バルセロナ市、ビゴ市、イビサ島)および国内(三重県亀山市、広島県福山市、愛知県安城市)のコングレガシオン教会にて、教会の設立、信者の入信経緯、信者ネットワークと国内および国外での移動にかんする実態調査を行った。口頭発表は、日本宗教学会(早稲田大学)と、ブラジルの3つの大学および研究所(ブラジリア大学移民研究所、パラナ連邦大学言語センター、ロンドリーナ州立大学社会学部)で行い、『現代宗教2017』(国際宗教研究所)に拙稿「旅する文化を生きる人々―スペインのブラジル系キリスト教会― 」を発表した。 調査および発表の実施場所と日付は次の通りである。国内調査:亀山市(2016年5月29日)、福山市(2016年5月21・22日)、安城市(2016年6月18・19日、10月16日)、海外調査:スペイン(2016年7月29日から8月16日)、国内研究発表:日本宗教学会第75回学術大会(2016年9月10日)、海外研究発表:ブラジル(2017年3月16日から同23日)。 ディアスポラとして生きるコングレガシオン教会の信者らは教会ネットワークが生み出す社会関係資本を新たな土地への定着に巧みに活用していることが多い。移住先では教会活動を通じて他の地域や国で生活する信者と交流を持ち、それが新たな移動を容易にしている。その場合の移動とは必ずしも就労目的に限られるものでなく観光(旅行)の場合もある。これまで「観光と宗教」というテーマで行われている研究には「巡礼(地)」に関する議論が多いが、本研究で明らかになりつつあるのは特定の巡礼地(観光地)を求めるというよりも、信者との宗教的交流である。また、信者の移住には①単身での移民、②還流移民、③夫婦での移民という3つのパターンが認められ、特に①のケースでは移動の動機として経済的理由というより観光目的という場合があることが指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スペインでの調査は当初の目論見以上の進捗が見られた。現地の信者宅にお世話になり日常を共にすることができたおかげで、移住先における信者らのエスニックネットワークと、教会ネットワークの広がりをつぶさに確認することができた。しかもその広がりは、今年度発表の拙稿で記したように「旅する文化」という特徴を持っており、ネットワークを通じてメンバーがいくつかの地域や国の間を移動することを容易にさせるという、グローバル社会に順応した資質があることが確認された。また、文献調査ではそもそも国内出稼ぎ労働者による人の移動という現象がコングレガシオン教会をブラジル全土に進展させていたことが理解できた。ゆえに、「旅する文化」という特徴はコングレガシオン教会そのものの生成要因であることが分かった。 調査ではコングレガシオン教会が他のブラジル産プロテスタント教会と異なる独自性を持っていることを確認した。すなわち、儀礼(集会)では吹奏楽器を演奏した静かな音楽を奏で、布教方針では改宗を迫らない。特に布教態度の非積極性に関しては、その理由が同教会の宿命論という教えにあることが分かった。教会に入信するか否かは、神の意志によると理解するがゆえに他者に改宗を迫らないのである。このような宿命論が生む、ともすれば受動的な心情は、現状を積極的に改変したいと神に願うことの多い他のプロテスタント教会の教説と非常に異なっている。 これまでの調査で、信者の移住パターンは①単身での移民、②還流移民、③夫婦での移民の3つに大別できた。スペインの調査では、それぞれのライフヒストリーにかんする聞き取りができた。それに対して日本でのデータ収集は十分とはいえない。そのため今後の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
スペイン系ブラジル人と日系ブラジル人には、祖父母の祖国であることを理由にそれぞれの国を移住地に選ぶ帰還移民(リターンマイグラント)がいる。さらに、家族の成員が移住することで本人の家族や親戚が連鎖的に移住するというチェーンマイグレーションが両国ともに確認されている。こうした移民の事例はコングレガシオン教会でも確認できるが、リターンマイグレーションとチェーンマイグレーションも含めた信者の移動のありようを移民のネットワーク形成という観点から捉え、そこに与える宗教の役割を精査する。その際に、昨年度の研究によって明らかになった同教会の宿命論という教説に着目したい。宿命論が人々の移動や新たな土地に定着するといった決断にどのような影響を与えるのかという問題である。 また、信者はブラジル人1.0世(移民時18歳以上)、1.5世(移民時18歳未満)、2.0世(ホスト国生まれ、親の出身地が外国)、2.5世(ホスト生まれ、片方の親の出身地が外国)に分けることができるが、アイデンティティの在り方を状況依存的であると理解したうえで、彼らのエスニックアイデンティティの形成と変容について調査する。
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Research Products
(2 results)