2017 Fiscal Year Research-status Report
差別から見た日本宗教史再考―社寺と王権に見られる聖と賎の論理
Project/Area Number |
16K02196
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
磯前 順一 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (60232378)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 聖なるもの / 公共性 / 聖俗論 / 聖賎論 / 日本宗教史 / 被差別部落 / 世俗化論 / 主体化論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は神道学や仏教学の社寺論、民俗学の芸能論、歴史学の被差別部落論など、網野をはじめとする歴史学における社寺をめぐる聖賎論周辺の研究に関する基本文献リストを作成しつつ、その理論的布置の体系的な把握をおこなった。そのなかで、すでに中世日本の芸能史を中心に研究を進めるチューリヒ大学のラジ・シュタイネック氏およびトモエ・シュタイネック氏(いずれも研究協力者)とも連絡を密にとり、中世から近世、さらに近世から近代へと展開する聖なるものと差別の関係の歴史的位相の変化を把握した。こうした作業が天皇と社寺、さらには天皇と芸能者や賎民たちの関係の再考を促すものになる以上、網野『異形の王権』(1986年)にはじまり、安丸良夫『近代天皇像の形成』(1992年)や石母田正『日本古代国家論』(1995年)、 井上寛司『「神道」の虚像と実像』(2011年)など、天皇制や国家神道をめぐる従来の議論を聖賎論の観点から再解釈する試みと接合させていった。 なかでも神道学や仏教学の社寺論は、個別の社寺論の研究蓄積の厚い分野であるが、自らの所属する社寺が被差別部落民とどのようにかかわって来たのかについては明確な記述がきわめて少ない。それをおぎなうために、大阪人権博物館の吉村智博氏(研究協力者)の協力を仰ぎつつ、歴史学をはじめとする被差別部落論の研究史から聖賎論に適した成果として、京都の清水坂、奈良の奈良坂、そして大阪の旧渡辺村という研究対象を抽出していった。そのなかで、社寺と非人の関係がいかなるものであったのか、具体的な資料に基づいて検討をおこない、欧米の宗教学者のエリアーデの世俗化論では解釈できない、むしろイタリア系ユダヤ人のジョルジョ・アガンベンの聖俗論に共通性を有する日本の聖なるものと賎民との関係の特質を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
吉村智博氏やラジ・シュタイネック氏やトモエ・シュタイネック氏、さらには苅田真司氏(國學院大學・政治理論)をはじめとする宗教史・歴史学・政治理論の研究者たちとの研究連携作業により、国内外の日本宗教史及び被差別部落史研究さらには欧米の公共性理論の情報収集が思った以上に進んだ。 一方で一次文献の分析は古典的な史料集は押さえたものの、最新の史料集には及んでおらず、平成30年度はその分析をさらに進める予定である。しかし、フィールドワークは清水坂・奈良坂・旧渡辺村とも複数回行っており、現地の関係者からの聴取調査も進んでいる。宗教学的な理論解釈のもとでの、民俗学的なフィールド調査と歴史学的な文献調査の統合という研究枠組みの基本線は、今年度にしっかりと確立したといえる。その意味で宗教学的な聖俗論からの総合的な研究方法の確立が、今年度の最大の成果であったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
一次史料にもとづく日本史学及び被差別部落史の聖俗論の研究の批判的再検討を集大成する。そのために、平成30年度の前半には、宗教学の聖俗論及び政治理論の公共性論の理論的な系譜を辿り、それを日本宗教史の資料にもとづいて読み直す。ここにおいて、苅田真司氏やシュタイネック夫妻らとの協力関係において、欧米の宗教理論を日本宗教史の観点から書き直す先行研究の再評価を提示する予定である。 平成30年度の後半には、その先行研究の再評価を踏まえて、吉村智博氏や佐々田悠氏さらには吉田一彦氏らとの研究連携によって、清水坂・奈良坂・旧渡辺村を軸にした聖俗論及び聖賎論の観点からの日本宗教史の記述を行う予定である。 なお、いずれも日本語及び英語での論文発表を予定している。特に英語での成果発表に関しては、鍾以江氏(東京大学・宗教史)及びラジ・シュタイネック氏との連携から、欧米での学会(宗教学会およびアジア学会)のパネル報告も企画している。
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Research Products
(7 results)