2016 Fiscal Year Research-status Report
徳川儒学における儒礼受容とその展開:林家・昌平坂学問所の思想と実践を中心に
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16K02197
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30311898)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 徳川儒学思想 / 儒礼 / 釈奠 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、徳川時代の儒学、とりわけ寛政期以降の林家と昌平坂学問所(昌平黌)関係者の儒礼をめぐって、同時代的な明代・清代学術の受容と、彼らの日常的な儒礼の実践を関係づけて検討しようとするものである。 研究初年度の前半は在外研究期間と重なったため、半年間英国を拠点に研究調査に従事し、関連の比較思想史・宗教史分野の蓄積を吸収することに努めた。具体的には、19世紀半ばまでの中国や日本の儒礼、とくに祀孔と崇祖の実践が、英国人キリスト教宣教師たちにどのように映ったかを、教会組織の当時の機関誌や刊行著作ばかりでなく彼らが筆記した諸史料のうちに探った。本研究では、研究期間内に、儒礼を宗教儀礼の問題として検討してきた欧州の研究者たちと研究内容について対話を行うため、前提となる神や霊魂をめぐる諸概念について、漢語の翻訳問題にまで遡って検討する必要があった。 またこれに関連して、儒教を「宗教」と捉える20世紀後半以降の諸研究を検討し、儒礼を論ずる理論枠組みの整理を試みた。西洋に出自をもつreligion概念とその翻訳語としての「宗教」概念の、双方のヨーロッパ中心主義的な性質と歴史的制約が指摘されて久しい。儒教が「宗教」か否かを問うことは生産的ではないが、西洋人の眼に当時religiousな事柄と映った内容が、儒教文化圏に如何なる形態で存在したかということは、歴史や思想史の分野において、いまなお有意義な問いになると考えられる。 年度の後半には、徳川日本の広義の幕府儒者たちの祀孔と崇祖をめぐる思想と実践を、寛政期の釈奠改革の根本史料である「釈奠私議」などをもとに再検討した。同時代的な明代・清代学術の受容と、彼らの日常的な儒礼の実践を関係づけて検討するために、そこで挙げられている国内外の史料の引用典拠にあたりつつ分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在外研究と重なったため、当初予定していた日本国内の史料調査と解読にもとづく儒礼の実態調査よりも、儒礼を論じる際の理論的検討に比重を置くことになった。しかし、第2年度以降に海外の儒礼や宗教思想史の研究者たちとの討議を予定しており、そのために中国や欧米での理論面での研究状況を把握することは不可欠であった。儒礼にとどまらない宗教儀礼をめぐる幅広い研究の示唆を受けたこと、その検討を踏まえて、現時点での暫定的な研究見通しを論文として公刊できたことから、プロジェクトの初年度としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き幕府儒者たちの祀孔と崇祖めぐる具体的認識を探りつつ、思想と実践における両者の関連づけに照準をあわせる。また日本国内の研究者ばかりでなく、欧米の学界で徳川期の儒礼研究や宗教思想史研究を牽引してきた専門家たちと討議し、多様な角度から批判を受ける予定である。 孔子の霊魂を祀る儀礼である祀孔は、家廟における死者の祭礼といった崇祖の延長とその発展のもとに位置づけられるが、当該期の徳川儒学において、これらはどのように捉えられていたのか。さらに近世期の武家霊廟にみられる人神祭祀との関連についても、比較思想史・宗教史分野の蓄積を存分に活かしつつ分析する。研究代表者は、仮説として、釈奠使用の神像をめぐって、神仏習合した日本仏教の強い影響を受けた日本独自の伝統と、そこでの神霊の捉え方が、釈奠の実践に大きく影響していると結論づけたが、本研究での儒礼の他の諸要素の検討を踏まえても、その見立てが成り立つのかどうか検証し、見通しを立てたい。また、もし成り立たないならば、日本での儒礼の独自な展開にどのような要因が作用しているのか、幕府儒者のなかでの担い手と事例を整理しつつ追究したい。
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Causes of Carryover |
今年度の検討の結果、儒礼をめぐる理論的検討が、欧米や中国で予想以上に蓄積のあるものであることが分かり、宗教儀礼の問題の検討と並行して、これについても分析を進め、先に見通しを得ておくことが研究の効率的遂行に資すると判断した。そのため、当初今年度に予定していた昌平坂学問所の分校である徽典館の史料調査などを次年度に延期し、旅費等に使用する予定であったその分の予算から100,000円を残すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
儒礼についての資料の分析・検討をさらに進め、現地で閲覧・収集すべき史料を絞り込んだ上で、次年度の調査の旅費や文献の複写費等として使用する。
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