徳川儒学における儒礼受容とその展開：林家・昌平坂学問所の思想と実践を中心に

2018 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K02197
• Research Institution: Hokkaido University
• Principal Investigator: 眞壁 仁 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30311898)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2020-03-31
• Keywords: 徳川儒学思想 / 儒礼受容 / 釈奠 / 憑依 / 祀孔 / 崇祖

Outline of Annual Research Achievements

寛政期以降の林家と昌平黌関係者の儒礼をめぐって、同時代の中国学術の受容と、徳川日本の儒礼の実践を関係づけて検討することが、本研究の目的である。儒礼の実践を理解するために、比較宗教学、歴史文化人類学、精神医学史など、広く隣接分野の研究成果から学び、狭義の思想史研究だけでは迫れない対象を扱おうとしている。
過年度までの検討に加え、プロジェクト第3年度は、第一に、美術史の成果を踏まえて祭祀儀礼での障屏画選択方針とその意図を探ろうとした。寛政期の禁裏御所造営の際に、紫宸殿を飾る「賢聖障子」の図様に対して、幕府御儒者は注文をつけ、古画の踏襲ではなく考証学的に検討を加える必要を提言していた。これは、同時期の学問所釈奠における「賢儒図像」撤去問題と無縁であるとは思われない。先例や典拠の徹底的な調査により、「古制」を正しく伝える文献や粉本の参照が求められたのは、学術界だけでなく儀礼実践においても同様だった。
この関心の延長で、第二に、近世期以降の禁裏儀礼における祖先祭祀と祖霊憑依の問題を、日中の孔子と祖先の祭祀が果たす社会統合機能の比較を踏まえつつ検討した。禁裏儀礼と儒教儀礼とでは、正しい「古制」のモデルをどこに設定するのかに大きな相違がある。しかし、後期水戸学における大嘗祭の位置づけを引くまでもなく、禁裏儀礼との比較とその意味づけは、日本の儒礼を同時代の広い文脈で捉える上で欠かせない。本研究では、すでに仏教やヒトガミ信仰の影響のもとで徳川儒学の祭祀が独自な展開を遂げたことを明らかにしたが、これとの関連で禁裏の儀礼実践を理解することが課題になった。

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

本年度の計画としては、宗教儀礼として儒礼を検討してきた欧州の研究者たちとの研究対話を予定していた。しかし、公私にわたる諸事情が重なって、国内に留まらなければならない必要が生じ、期間中に一度も海外出張の機会を設けることができなかった。また、まとまった時間の確保が難しく、想定した通りには研究成果を発表することができなかった。

Strategy for Future Research Activity

最終年度にむけた研究の推進方策として、林家・昌平黌を中心に徳川儒学の儒礼の特徴を思想と実践の両面からまとめ、新たな知見を提示することに力を注ぎたい。過年度に実施できなかった欧米の専門家たちとの討議と批判を受ける機会を設けたい。この研究プロジェクトを通して得た学際的な知見をもとに、執筆中の論文の改訂を重ねる。また補足調査のために史料蒐集なども行い、早期の成果の活字化をめざす。

Causes of Carryover

公私にわたる諸事情により日本国内に留まる必要が生じ、予定していた欧米への外国出張を実施できなかったことが、次年度使用額が生じた主たる理由である。抱えていた問題は経過観察に変わり、事態が改善されつつあることから、翌年度は早期より外国出張を行い、儒礼問題で欧米の学界を牽引している研究者たちとの研究対話の機会を設ける。また成果の活字化にあたり、補充すべき資料の収集も行い、国内外の最新の成果を踏まえたうえで説得力のある研究をまとめたい。