2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02199
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
厳 錫仁 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20387111)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 貢悦 筑波大学, 人文社会系, 教授 (80187187)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 李退渓 / 熊本実学派 / 心論 / 朱子学 / 元田永孚 / 大塚退野 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、大きく分けて三つの方向で研究を進めた。 第一に、中国儒学史における心論、心工夫の展開傾向の研究である。これは、本研究の全体テーマとなる李退渓と熊本実学派の儒学思想の比較において、「心」をどのようにみていたのかという心論への視座が両側の同異を考察する際の重要な契機になる、ということを前提にした基礎的な考察である。その目的のために本年度では、荻生徂徠の心軽視の姿勢を念頭に置いて、孔子、孟子、荀子、朱子学の心論を取り上げ、彼らが心を語り、多くの議論をし、また重視した、その目的や背景の事情を考察し、その成果を「儒学における心」(倫理研究所『倫理』765・766号)として公表した。ここでは儒家思想において心は人間の思惟機能と存在根拠として位置づけられており、とくに彼らの心を論ずる主な関心は、「人心」といわれる不安定な現実の心をいかに統制し正しくするかに注がれていたことを明らかにした。 第二に、日本思想と李退渓との関係について、今日においてそれを研究する根本的な目的や意義を再整理したことである。とくに元田永孚の学問形成に焦点を合わせて、心を軽視する江戸儒学史の全般的な傾向に照らしながら考察し、これを「元田永孚の学問形成と退渓学の影響」(第26回退渓学国際学術会議)として発表した。この会議での発表文は、日本語と韓国語の両方によって作成されており、今年度内に補完・修正をして雑誌投稿などを通して日本と韓国で発表する予定である。 第三に、資料の精読・分析である。今年度において『孚斎存稿』『大塚退野先生語録』『深淵存稿』『集義和書』『元田永孚文書』の基礎資料の分析を進めており、次年度からの本格的な研究発表や論文執筆に備えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に計画していた大塚退野、平野深淵、藪慎庵についての研究考察がすこし遅れているが、彼らの資料の精読・分析はおおむね終わっており、近々に研究発表を予定している。また、当初は予定していなかった熊沢蕃山と元田永孚の資料を分析し、それに基づいて上記のとおり国際学術会議において研究発表(「元田永孚の学問形成と退渓学の影響」)を行ったことは、本研究の全体的な遂行過程においておおむね順調に進んでいると認識している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度に行った研究発表の「元田永孚の学問形成と退渓学の影響」を補完・修正し、日本と韓国の学術雑誌に発表すること、熊本実学派の源流となる大塚退野などの思想特質をまとめて研究発表あるいは論文にすることを目指す。そして、次年度の研究計画どおり、江戸思想史の全体的な傾向についての調査と、熊沢蕃山の思想(経世思想と心論)を考察し、熊本学実学派への影響力とその同異点について研究を進める。
|