2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02200
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
権 純哲 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (80253178)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 朝鮮思想史 / 高橋亨 / 朝鮮儒学の異学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
高橋亨の京城帝国大学朝鮮思想史講義研究の基礎的作業である「朝鮮異学派之儒学:講本」と「同:講義案」の翻刻、注釈および引用資料の校勘を終え、『埼玉大学紀要:教養学部』第51巻第1号・同第2号、第52巻第1号同第2号に発表公刊した。埼玉大学図書館ウェブサイトにて公開されている第51巻第1号は234回、同第2号は172回、第52巻第1号は45回のダウンロード(4月21日現在)回数を示している。 また、韓国実学学会にて「帝国植民地学問‘朝鮮思想(史)’における実学派と異学派:稲葉岩吉と高橋亨の事例」を発表し、本研究による成果の一部を韓国学界に紹介した。 そして、研究費の支出においては、上記の学会発表のための出張を行い、その際に韓国の国史編纂委員会にて植民地朝鮮の儒学機関であった経学院関連資料を閲覧するとともに必要な資料の収集を行った。また、研究遂行に必要な復刻資料である、朝鮮王朝時代の随筆集『稗林』、植民地期の雑誌『文教の朝鮮』全86巻(復刻)と『朝鮮及満洲』(第3期・第4期復刻)を購入し、備品として設置した。 上記の研究一年目の実績として公開された朝鮮儒学の「異学派」とは、高橋が提唱し今は批判的検討が進められている朝鮮儒学史における主理派・主気派を「正統」としたうえ、設定された概念であるが、公表された論文などには述べられず、高橋亨京城帝国大学講義ノートにのみ記述されている、貴重な用語である。高橋によって構築された朝鮮儒学史・朝鮮思想史の枠組みは、その全体像が未だ明らかに示されておらず、本研究はその未踏の課題に挑むものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において基礎的作業である、高橋亨の講義ノートの翻刻・注釈・校勘の進捗状況は、一定程度のスピードで進んでおり、きわめて順調といえる。「朝鮮異学派之儒学」に続き、「朝鮮思想史概説」と「朝鮮儒学史」の翻刻をおおむね終えつつあり、その注釈・校勘作業をも進めている。 大学紀要への投稿も無理なく進み、公刊された高橋亨の講義は、PDFにて公開されており、埼玉大学図書館ウェブサイトからのダウンロード回数は相当上がりつつある。 また、韓国の学会において行った研究発表も、予想以上の反響があり、本研究に対する期待の大きを実感した。
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Strategy for Future Research Activity |
一年目の作業を継続していく。「朝鮮思想史概説」と「朝鮮儒学史」の注釈・校勘を完了させ、発表するとともに、「朝鮮思想及信仰史」の翻刻を進める。 また、購入した備品図書を用いた高橋亨の活動に対する調査を開始する。 韓国の高橋亨研究グループや研究者との研究交流を行う。韓国では、韓国文学および韓国文学史を専門とする研究者がグループをなして、高橋亨の朝鮮文学研究に対する調査研究活動を開始しており、本研究のさらなる促進をはかるべく、具体的な研究交流を実行していく。 なお、当初計画していた講義ノートのカラー写真によるPDF化を行うためには、長期間資料を業者に預けなければならず、それによる翻刻作業の中断や遅延が避けるため、それを見送った。資料のPDF化については、次年度以降、あらためて検討したい。
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Causes of Carryover |
当初計画していた高橋亨京城帝国大学朝鮮思想史講義のPDF化を見送ったことが主な理由である。講義資料の保存や利便性向上をはかるための計画であったが、PDF化のために資料を業者に預ける日数が相当かかることが判明し、むしろ研究の基礎作業である翻刻作業の計画的進行に妨げになっていたため、研究の実質的作業の推進を優先すべきと判断したのである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
基本的な作業である高橋亨の講義の翻刻・注釈・校勘を継続し、高橋の執筆資料および高橋関係の活動内容の調査・収集を本格的に実施することに、専念する。そのために必要な復刻資料の購入、出張調査を優先的に行う。高橋講義の全面公開のための講義のPDF化については、講義の翻刻作業が一段落したときに、改めてその方法について検討する。
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