2016 Fiscal Year Research-status Report
後期コンディヤックと観念学派-感覚論哲学研究の総合-
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16K02204
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
飯野 和夫 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (30212715)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 感覚論 / コンディヤック / 観念学 / 記号 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまでの研究の蓄積の上に、国内外で未だ研究の進んでいない後期コンディヤックにおける感覚論哲学、とりわけ記号論の展開を跡づけ、彼の思想の全体像を明らかにすることであり、さらには、コンディヤックからデステュット・ド・トラシ、カバニスら次世代の観念学派へと至る道筋を見出すことである。こうした探究を通して、感覚論の現代的な意義をも明らかにしようとする。 初年度である平成28年度は、コンディヤックの後期思想を研究する作業に着手した。この作業の一部は、論文「コンディヤックの自由論--ロックの自由論との比較のもとに--」(名古屋大学大学院国際言語文化研究科『言語文化論集』第38巻第2号、2017年2月発行, pp.87-115)として公表した。コンディヤックは人間の自由を、後期に先立つ中期とも言える時期の『感覚論』(1754)と、それに付属する『自由についての論考』(1754)にまで至る諸著作で論じた。コンディヤックによれば人間の自由は人間が自在に思考を、したがって記号を操ることであり、記号概念と関係する。また、口頭発表「フーコーの見たボネとコンディヤック」(2017年2月、名古屋大学退職記念講演)においては、M. フーコーのコンディヤック理解に関連させて、後期の『交易と政府』(1776)にまで至る、コンディヤックの言語論と交易論を検討した。これらは広義の記号論の一部をなす議論である。 なお、平成28年度にはボルドー、ナント、アンジェ、レンヌ等の大学図書館等で、コンディヤックの『人間知識起源論』の版による内容の異同について、以前より続けている調査を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、コンディヤックの後期著作の分析・検討を進める予定であった。「研究実績の概要」欄で述べたように、研究は進展を見ている。しかし、論文および口頭発表の準備が予想以上に手間のかかるものであったため、後期の著作の内、『考える技術』(1775)、『推理する技術』(1775)、『論理学-考える技術の初歩』(1780)といった著作の検討は行えなかった。この点で、研究全体の現在までの達成度は予定よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、コンディヤックの後期の感覚論関係著作の内、『考える技術』(1775)、『推理する技術』(1775)、『論理学-考える技術の初歩』(1780) といった著作の検討を開始する。また、社会理論ではあるが、記号論と関連させて考察することができるコンディヤックの後期の著作『交易と政府』(1776) はすでに28年度に研究を開始したが、それを継続する。これによって、コンディヤックによる知性の分析と、社会理論や道徳論としての人間活動の分析を、記号の概念を媒介に関連させて検討し、感覚論哲学の人間観を全体として検討することに道を開くと考えている。 平成29年度にはさらに、感覚論を継承する次世代の観念学派の思想家、特にデステュット・ド・トラシの思想の検討を開始し、コンディヤックの次世代への影響を跡づける作業に入る予定である。 平成29年度には、フランス、ベルギーへの調査研究旅行を予定している。コンディヤック著『人間知識起源論』は、一部の内容が異なる初版と改訂版が並行して流布したが、私は先の科研費研究より各地の研究図書館で二つの版の収蔵状況を調査している。平成29年度にはフランスとフランス語圏ベルギーの研究図書館で調査を継続する予定である。
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