2017 Fiscal Year Research-status Report
後期コンディヤックと観念学派-感覚論哲学研究の総合-
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16K02204
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
飯野 和夫 名古屋大学, 人文学研究科, 名誉教授 (30212715)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 感覚論 / コンディヤック / 観念学 / 記号 / ボネ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまでの研究の蓄積の上に、国内外で未だ研究の進んでいない後期コンディヤックにおける感覚論哲学、とりわけ記号論の展開を跡づけ、彼の思想の全体像を明らかにすることであり、さらには、コンディヤックからカバニスら次世代の観念学派へと至る道筋を見出すことである。また、感覚論の現代的な意義をも明らかにしようとする。 本研究の二年目である平成29年度は、コンディヤックの後期思想の研究を継続した。この成果の一部は、論文「フーコー『臨床医学の誕生』におけるコンディヤック」(名古屋大学大学院人文学研究科『人文学研究論集』第1号、2018年3月発行, pp.99-128)として公表した。M. フーコーのコンディヤックへの言及に関連させて、コンディヤックの分析理論を、後期の著作『論理学』(1780)に至るまで検討した。 一方、著名な感覚論哲学者であるシャルル・ボネの代表的著作『心理学試論』(1755)を翻訳出版することが確定し、すみやかに完成すべく共訳者を立てて翻訳にとりかかった。仕事は順調で、ほぼ2018年度中に出版できる見通しである。ボネも観念学派に影響を与えており、この翻訳出版は本研究の一環として価値があろう。 また、日本フランス語フランス文学会秋季大会(2017年10月)のワークショップ「哲学的地下文書研究、成果と今後の展望」において、「『トラシュブロスからレウキッペへの手紙』に見る感覚論」と題する口頭発表を行い、18世紀の哲学的地下文書群の中で一番まとめて感覚論哲学を展開している、1720年代の執筆と推定されるこの著作を例に、観念学派にまで至る18世紀の大きな思想潮流としての感覚論のあり方を提示した。 なお、平成29年度にはフランス、ベルギーの5都市の大学図書館等で、コンディヤックの『人間知識起源論』の版による内容の異同について、以前より続けている調査を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は、コンディヤックの後期著作の分析・検討を進める予定であったが、特に『論理学-考える技術の初歩』(1780)の検討を行った。他の後期著作の検討は進まなかった。一方、観念学派の検討は、デステュットよりもカバニスを優先することとし、検討を進めることができた。どちらの場合も、M.フーコーの議論を参考にした。また、シャルル・ボネの代表的著作の翻訳出版計画を進めることができた。思想潮流としての感覚論の広がりを探る研究も進めることができた。この最後の二点において、本研究は当初の予定以上に広がりを持つことができた。ただし、コンディヤックの後期著作の広い検討が進まなかった点で、研究全体の現在までの達成度は予定よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、コンディヤックの後期の感覚論関係著作の内、『考える技術』(1775)、『推理する技術』(1775) の検討を進める。さらに、感覚論を継承する次世代の観念学派の思想家のうち、カバニスの検討を深め、デステュット・ド・トラシも検討する。また、ボネ『心理学試論』の翻訳を完成させる。年度の後半には、3年間にわたった本研究のまとめの作業を行う。 平成30年度は特にフランスへ行くことは予定していなかったが、平成30年2月にパリで「国際哲学コレージュ」の「『百科全書』と解釈学」についてのセミナー(責任者、クレール・フォヴェルグ氏)の一回の講師を担当し、「コンディヤックにおける「分析」と『百科全書』」というタイトルで講義を行うことになった。本研究の成果を盛り込み、フランスの研究者や学生と議論する中で、本研究の妥当性を測る機会とするつもりである。この準備には平成30年度の後半を当てる。また、このパリ訪問を利用して、これまで続けてきた、フランス各地の学術図書館でのコンディヤック『人間知識起源論』の初版と改訂版の収蔵状況調査も、パリ近郊の数都市で行う予定である。
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