2017 Fiscal Year Research-status Report
戦争・統治・政治:ポスト68年5月のフーコー思想とフランス社会哲学
Project/Area Number |
16K02211
|
Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
箱田 徹 天理大学, 人間学部, 准教授 (40570156)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 思想史 / フーコー / 現代思想 / 戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
年度前半はとくに1970年代フーコーの現代的受容について、広義の「戦争」すなわち社会的な係争点となっている事柄との関係という観点から研究を進めた。夏にはソウルを訪問し、フーコーをはじめとするフランス社会哲学の韓国での今日的な受容と当地での社会運動の動きについて大学内外の研究者・知識人や活動家から話を聞いた。訪問中には研究成果について口頭発表も行ったほか、拙著『フーコーの闘争』の韓国語版出版社など出版関係者との意見交換も行った。広く韓国における現代思想と社会運動との関係、また研究の東アジアでの将来的展開と社会的還元のあり方について豊かな示唆を得ることができた。 フーコーの新自由主義論をめぐる最近の動向を政治思想家ウェンディ・ブラウンの近著への論評というかたちでまとめた。ブラウンは現代米国の新自由主義についての言説分析を行う一方で、アリストテレスや疎外論的マルクス主義を理論的背景として、民主政治の目標に善を掲げ、自由な生の尊重を訴える。ブラウンらにとっては、福祉国家による生の管理に一貫して異議を唱えたフーコーの所論は国家の社会的役割の縮減を推進する新自由主義に棹さす側面があると映る。しかしブラウンの議論は、私たちがすでに高度に人的資本化されていることへの批判をリベラルなヒューマニズムの観点から行う点に限界がある。フーコーの主体化論からの批判的応答が必要であるが、この点について十分に論じることができなかった。 年度後半はフーコーの絶筆である『肉の告白』が刊行されることが明らかになったため、その読解の準備作業を行った。2月の刊行直前にパリで行われたシンポジウムを聴講し、同書をめぐる問題系について情報収集を行ったほか、国立図書館で関連資料についての調査を行った。研究成果は2018年度以降に順次公表する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者の本務校の異動などもあり研究体制の再構築に時間が取られた面があるため。また2018年2月の性の歴史第4巻『肉の告白』の刊行は予想外の出来事であり、これに対応するための関連文献読解に時間を取られているため、全体の進捗状況に遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
予定にしたがい、1960年代から70年代の左翼主義雑誌とフーコーとの関係についての研究を行うとともに、1970年代前半のコレージュ・ド・フランス講義録における戦争概念の現代的受容について、移民研究やセクシュアリティ研究などの分野でどのような動きがあるのかについても認識を深め、研究の幅を広げたい。海外ゲストを招いた国際研究集会についてはこの方向で開催を模索する。また『肉の告白』についてはフーコー研究における一大事件であり、研究計画を構想する時点ではまったく予想していなかったことである。1980年代フーコーの読み方についてもきわめて大きな影響を与えることでもあるので、同書の「性の歴史」シリーズおよび統治論との関連について研究を進めたい。
|
Causes of Carryover |
年度末の出張にともない若干の未精算分が生じた。次年度に執行する。
|