2018 Fiscal Year Research-status Report
戦争・統治・政治:ポスト68年5月のフーコー思想とフランス社会哲学
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16K02211
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
箱田 徹 天理大学, 人間学部, 准教授 (40570156)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 思想史 / 社会哲学 / フーコー / 現代思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
1970年代フーコー統治論と戦争概念とのかかわりについての考察を深めるとともに、フーコーのキリスト教への関心と権力論・統治論との関連を検討した。1970年代半ばまでのフーコーは、規律権力、ひいては真理・真実を通じた他者の振る舞いの管理統制としての「他者の統治論」の祖型となったのは、中世キリスト教の修道院や改革運動であり、その後の告解実践の「世俗化」現象であると説いていた。他方で、1970年代後半の統治論では、「政治的霊性」という表現を用いて、キリスト教の霊的-宗教的実践と、世俗社会における権力関係の実践との接合である「司牧権力」による「他者の統治」に相対する、被治者みずからが行う「別の導き」、すなわち主体的でオルタナティブな統治としての「自己の統治」を導出した。フーコーは世俗的なものと宗教的なものとが交錯するところで権力概念を捉えることで、統治論における「救い」の問題を析出させていると言ってよい。本年度の成果物ではここまでの議論を整理し、提示した。他方で戦争概念と統治概念のかかわりについては、フーコーが戦争概念を放棄し、関係論的な権力論への比重を高めたとされる『知への意志』刊行以降においても、戦略と戦術といった戦争にかかわる語彙をそのまま保持していることに注目した。そして1970年代前半のフランスという、ポスト68年5月における議会外左翼の運動が最高潮に達していた時期のなかで、フーコーが戦争概念を権力関係の解読の中心に据えようとした、1972-73年度の『懲罰社会』講義を読解することで、この概念の現代性について検証を行った。また思想史的にみて、当時の知的状況を強く反映している、ランシエールの著書『哲学者とその貧者たち』の翻訳・刊行に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
フーコーとキリスト教をめぐる議論には更なる展開があることに執筆途中で気付かされたが、十分な検討ができなかった。具体的には、1980年代になるとフーコーは議論の枠組みを広げ、キリスト教そのものが西洋権力のあり方を変えたとの主張に転じるのである。この点については2019年度に検討したい。また統治と戦争論の部分については、研究の最新動向を十分にフォローし、みずからの議論と交錯させて検討する点で遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
海外研究者を招聘しての国際ワークショップを開催し、フーコーにおける戦争論と統治論について最新の理論的検討を重ねると同時に、現代世界が抱える人の移動(難民・移民)や排外主義といった問題についての理論的な介入の余地について探る。また積み残した論点についての議論を深め、成果物として公開する。
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Causes of Carryover |
当該課題の総括作業の一環として、ボローニャ大学文学部のSandro Mezzadra准教授を招き、1970年代前半のフーコー思想から現代社会を考察する趣旨の国際研究集会等を開催し、内外研究者とのネットワーク強化を含め、今後の研究課題の展開を模索する予定である。
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Research Products
(3 results)