2016 Fiscal Year Research-status Report
ギリシア教父におけるプラトン主義的「神に似ること」概念の受容史研究
Project/Area Number |
16K02215
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
土橋 茂樹 中央大学, 文学部, 教授 (80207399)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 「神に似ること」 / 「神」概念 / 古代ギリシア / プラトン / プロティノス / 徳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「神に似ること」を人間本性の完成とみなすプラトン主義的な伝統が、プロティノスを経て初期キリスト教思想にどのような影響を与え、いかなる変容を被ったかを検証・考察することを目的とする。平成28年度はその初年度として、以下の4点の研究活動を行なった。 ①予備的考察として、ホメロス、ヘロドトスからソクラテス以前の哲学者に至るまでの様々な伝統的「神」概念の用法を研究調査することによって、古代ギリシア哲学における「神」概念の諸相を原典から確認することができ、大きな成果を得ることができた。 ②プラトン『パイドン』『国家』『テアイテトス』における「神に似ること」という概念を重点的に考察することによって、その概念がどのような文脈でいかなる目的のために用いられたのか、またその背景にいかなる哲学的「神」概念が前提されていたのかをできる限り精確に把握し、その解明が試みられた。 ③プロティノス『エンネアデス』における「神に似ること」及び「神」概念の展開事例をテキストから可能な限り析出し、それを②で得られたプラトン的原型及び他のヘレニズム期諸学派と比較考察することによって、同時期における同概念の継承の実態と変容の可能性を哲学的に探求した。 ④「神に似ること」のために、いかなる徳が(たとえば、市民的徳と浄化的徳が区別されるように)要請されていたのかを、それぞれの徳が必要とされた文脈と関連付けることによって具体的かつ詳細に跡付けていった結果、本研究の今後の展開に関して大きな示唆を得た。 以上を総括するに、それぞれの領域においては従来から優れた研究が無数にあるが、本研究のように「神に似ること」概念の解明という一貫した観点から総合的、体系的に研究されることは稀であり、まだ序論段階とはいえ、その限りで多いに意義ある成果を得たものと思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究目的の達成度に関して、おおむね順調に進展しているという自己評価は以下の理由による。 ①予備的考察としてのソクラテス以前の哲学者に至るまでの主に文学・史学領域における「神」概念研究、およびプラトン対話篇における「神に似ること」概念の研究に関しては、連携研究者として本研究と並行して私が取り組んでいる「古代ギリシア文明における超越と人間の価値ー欧文総合研究」(科学研究費補助金・基盤研究(B)、研究代表:納富信留)の主要メンバーである西洋古典学、史学、プラトン研究の専門家たちと頻繁になされた研究集会や研究合宿において、大いに啓発され、本研究のテーマに関しても多大の収穫を得た。 ②プロティノスを中心とする新プラトン主義に関する研究に関しては、平成28年まで私が会長を務めた新プラトン主義協会における多くのプロティノス研究やヘレニズム期哲学研究の専門家たちとの研究交流、とりわけ同協会大会でのシンポジウムから多くの示唆や教示を得られたことで、今年度から来年度にかけての研究の方向性に関しても、具体的な進展を得られた。 以上が、本研究が順調な進展を遂げていると自己評価できた研究活動面での理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果を基に、次年度は以下4種の研究活動を行なう予定である。 ①初年度で考証された古代ギリシア世界における「神」観と比較考察するために、古代末期のキリスト教が登場して以降の、とりわけ異教圏における一神教的「神」観に関する諸文献を可能な限りでサーベイする。 ②プラトン主義の影響を色濃く受けたフィロンやオリゲネスを中心に、プラトン起源の「神に似ること」概念が東方キリスト教圏においても受容、継承されている実態を文献から読み取り考証する。 ③カッパドキア三教父の膨大な文献群の中からTLGなど電子テキストによって「神に似ること」の用例を検索し、そのすべての用例を文脈に応じて解釈仕分けていく。そのような用法分析によって、彼らにおいてプラトン起源の「神に似ること」の伝統がどのように継承され、また変容されていったのかを詳細に調査し、それぞれの事例がもつ意味を総合的な見地から解明する。 ④それに伴い、神に似るためにどのような「徳」が要請されたかという観点についても、上記②③と関連させつつ、ギリシア教父に固有な「徳」理解を深めていく。 以上の研究成果は、順次、様々な学会や出版物を介して発表される予定である。
|
Causes of Carryover |
当初28年度予算で計画していたロシア・サンクトペテルブルク開催の国際学会・アジア・太平洋初期キリスト教学会(APECSS)への出席が、学会公務(主に中世哲学会での編集委員長としての職務)や東京大学から依頼された博士論文審査などの職務と重なったため、欠席を余儀なくされた。そのため、予算計上されていた外国旅費が執行できなくなり、その後、代替の国際学会として予定していたものも同年度中の開催が見送られたため、最終的に外国旅費として予定していた分がほぼ次年度使用額となった次第である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額分については、次年度(平成29年度)に予定されている国際学会あるいはそれに代替する国内の諸学会への旅費等に加えて、さらに国内外への資料収集および当地在住の研究者との研究交流の費用(主に旅費)に充てていく予定である。その他、当初請求した助成金の使用計画は、図書購入費等の備品費や資料整理及びデータ入力のための謝金など、ほぼ計画通りに進める予定である。
|