2017 Fiscal Year Research-status Report
ギリシア教父におけるプラトン主義的「神に似ること」概念の受容史研究
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16K02215
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
土橋 茂樹 中央大学, 文学部, 教授 (80207399)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 神に似ること / 神化 / ギリシア教父 / 徳 / プラトン主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「神に似ること」を人間本性の完成とみなすプラトン主義的な伝統が、プロティノスを経て初期キリスト教思想にどのような影響を与え、いかなる変容を被ったかを、検証・考察することを目的とする。平成29年度はその2年目として以下の4種の研究活動を行った。 ① 初年度で考証された古代ギリシア世界における「神」観と、古代末期のキリスト教が登場して以降の、とりわけ異教圏における一神教的「神」観とを、予備考察的に代表的文献に基づきサーベイした。 ② プラトン主義の影響を色濃く受けたフィロンやオリゲネスを中心に、プラトン起源の「神に似ること」概念が東方キリスト教圏においても受容、継承されている実態を文献から読み取り、考証できた。 ③ カッパドキア三教父(カイサレイアのバシレイオス、ニュッサのグレゴリオス、ナジアンゾスのグレゴリオス)の膨大な文献群の中からTLGなど電子テキストによって「神に似ること」の用例を検索し、そのすべての用例を文脈に応じて解釈し分けていく。そのような用法分析によって、彼らにおいてプラトン起源の「神に似ること」の伝統がどのように継承され、また変容されていったのかを詳細に調査し、それぞれの事例のもつ意味を総合的な見地から解明した。 ④ それに伴い、神に似るためにどのような「徳」が要請されたかという論点についても、上記文献調査②③と並行して、「神に似ること」概念の継承ないし変容過程に応じた徳概念の変容として明確に把握した上で、ギリシア教父に固有な「徳」理解の特定を試みた。 以上を総括するに、古代末期のギリシア哲学と初期キリスト教との影響関係を「神に似ること」概念の解明という一貫した観点から総合的、体系的に研究することは、本邦において従来ほとんどなされておらず、その限りで、2年目にして極めて意義ある成果を得たものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究目的の達成度に関して、おおむね順調に進展しているという自己評価は以下の理由による。 ①東方キリスト教圏における「神」観と「神に似ること」概念の研究に関しては、分担研究者として本研究と並行して私が取り組んでいる「古典教父研究の現代的意義-分裂から相生へ」(科学研究費補助金・基盤研究(B)、研究代表:宮本久雄)の主要メンバーである古典期教父研究の専門家たちと頻繁になされた研究集会や研究合宿において、大いに啓発され、本研究のテーマに関しても多大な収穫を得た。 ②神に似るために要請された「徳」概念の研究に関しては、私が提題者を務めた第17回東方キリスト教学会におけるシンポジウム(主題:「善く生きること」の意味と成立根拠を問う)から多くの示唆や教示が得られたことで、今年度から来年度にかけての研究の方向性に関しても具体的な進展を得られた。 以上が、本研究が順調な進展を遂げていると自己評価できた研究活動面での理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究成果を基に、最終年度に当たる次年度は以下3種の研究活動を行う予定である。 ① カッパドキア教父における「キリストに倣うこと」という概念の起源を確証すべく文献調査し、その上で、「キリストに倣うこと」が「神に似ること」の延長線上に置かれるべき理念なのか、それとも「神に似ること」とはまったく別の文脈における人間の理想像(=人間性の完成)として理解されるべきなのかを、当該文献から可能な限り明確に解明することを目指す。 ②「キリストに倣うこと」のために要請される「徳」の観念と、「神に似ること」のために従来要請されてきた「徳」観念との間には、いかなる相違/連続性があるのか、またそのことによる人間性の完成に関する理念にはどのような相違/連続性があるのか、その点に関する哲学的解明を試みる。 ③ カッパドキア三教父の全テキストにおいて、「神に似ること」と「キリストに倣うこと」という二つの鍵概念(及びその派生概念)の相互連関とそれが見出される文脈が、果たして両立可能な形で併存しているのか、それとも前者から後者への移行が見出されるのか、その点をまず電子テキストの索引機能を用い用例分布を克明に調査した上で、個々の用例解釈を行いつつ探求する。その際、単に語義の上での両概念の繋がりにとどまらず、トポロジカルな「上昇」と「下降」、さらに哲学・神学的には「超越」と「内在」、より具体的には「禁欲修道」と「隣人愛」という思考類型が果たす理念的働きがギリシア哲学からギリシア教父(すなわち東方キリスト教)思想に至る過程でどのように変移していくかを(可能であれば偽ディオニュシオス、さらには西方のエリウゲナまで拡げたスパンで)調査研究した上で、それらの成果を基に古代末期における哲学・倫理学・神学に通底する通時的思想連関の解明を試みる。
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Causes of Carryover |
(理由) 当初29年度予算で計画していたアメリカ・シカゴ開催の国際学会(北米教父学会)およびその代替学会として計画されていたメルボルン開催の環太平洋初期キリスト教学会への出席が、学会公務(主に中世哲学会での編集委員長としての職務)や東京大学から委託された博士論文審査などの職務と重なったため、いずれも欠席を余儀なくされた。そのため、予算計上されていた外国旅費が執行できなくなり、最終的に外国旅費として予定していた予算の7割ほどが次年度使用額となった次第である。 (使用計画) 次年度使用額分については、国内外の資料収集および当地在住の研究者との研究交流のための費用(主に旅費)に充てていく予定である。その他、当初請求した助成金の使用計画は、海外旅行費の他に、図書購入費等の備品費や資料整理およびデータ入力のための謝金など、ほぼ計画的に進める予定である。
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Research Products
(10 results)