2017 Fiscal Year Research-status Report
ポスト冷戦期における国際秩序観とロシアのユーラシア・アイデンティティ
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16K02216
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Research Institution | Tsuda University |
Principal Investigator |
浜 由樹子 津田塾大学, 国際関係研究所, 研究員 (10398729)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ユーラシア主義 / アイデンティティ / ロシア政治思想 / イデオロギー |
Outline of Annual Research Achievements |
古典的ユーラシア主義とも「ネオ・ユーラシア主義」とも異なり、政策決定過程にも一定の影響を及ぼし得る(と推測される)実務家・専門家集団が唱えるプラグマティックな「ユーラシア・アイデンティティ」が、アジア諸国、特に中国との対話の可能性を切り開く理念として意味を持つこと、その形成と展開の過程は国際関係論におけるコンストラクティヴィズム的理解にも貢献し得るという説に到達し、学会誌に発表した。そこでは同時に、国際関係論と思想史研究の「相互乗り入れ」的アプローチの有効性も示すことができたと思う。
また、現代のユーラシア主義の性格を明確化、相対化するために、新興国(中国、ブラジル)で顕在化している「欧米先進国が主導する国際秩序への異議・対抗」の理念や、ポーランドやトルコで再び問われている「ヨーロッパ性」との関係についても考察の範囲を広げた。その結果、従来多くの研究でなされていたような、単なる「ロシア・ナショナリズム」や「反アメリカ主義」という性格付けでは、この思想潮流は説明できないのではないかという仮説を持つに至り、本格的な検証に入った。この過程では、研究対象であるロシアや、これまで交流を行ってきた英語圏の研究者のみならず、ポーランドやブラジルの研究者との研究交流が重要なインパクトを持っており、国際研究交流の一つの成果であるといえる。
2017年度は、ロシア革命から100周年の節目の年であり、現代の観点からロシア革命の意義を問い直す企画がいくつもあった。革命によって亡命者となったユーラシア主義者の目から見たロシア革命をテーマとする依頼原稿、研究会への参加もあり、上記のような現代の文脈と100年前の歴史的文脈の間の往復運動を繰り返したが、時代と地域の要請における意外な共通性を見出す結果に至った。現在、ロシア語による論文執筆を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度、29年度に進めた資料調査の結果、当初の予測を超える数の二次資料が収集できたこと、途中から調査対象を広げたことから、資料の読み込み作業が予期していたよりも遅れており、したがって学会での成果報告もずれ込んだ。この二次資料の豊富さは、ロシア社会における当該テーマについての関心の高さを反映しているというだけでなく、関心のあり方が多岐にわたることも特徴的で、単なる先行研究の整理にとどまらない慎重な類型化を必要とする。
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Strategy for Future Research Activity |
幸いにも想像以上の量の資料が収集できたが、それらを読み、消化する時間が足りないことが危惧される。また、成果報告は論文やワーキングペーパーの形式で段階ごとに行うとしても、全体像を提示するには字数や紙幅に限界があるため、単著のかたちでまとめていくことも視野に入れて考えている。
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