2017 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ教における「デモクラティア」・「自由」の出現
Project/Area Number |
16K02221
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 准教授 (60399045)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ディモス / デモクラシー / デモクラティア / ラビ・ユダヤ教文献 / 民 / ユダヤ学 / 公衆浴場 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ラビ・ユダヤ教文献における「ディモス」(民)の概念を中心に分析した。「デモクラシー」「ディモクラティア」の語源でもある「ディモス」(民)は、ラビ・文献でも散見される用語であり、民、ディモクラティアへのラビたちの印象を知る手がかりになると考えた。 その結果、ディモスの用法は、ユダヤ教文献においてはいくつかの用法が著しく不均等に現れることが分かった。500年までのユダヤ教文献では、(公共的)「建造物」「墓石」「公衆浴場」の意味で用いられるが、中世以降の文献では、ほぼ「墓石」の意味で用いられるいずれにしても、民主主義としての「デモクラティア」につながる意味では使われていないただし、この「ディモス」からの連想で、為政者が「浴場」などの公共施設を提供する必要があることが説く譬話が散見された。これより、ラビたちが理想とする為政者と民の関係が推定される。それは、必ずしも為政者と民が同等な関係ではない。従って、近現代や19世紀のユダヤ学が理想とした、デモクラティア的ユダヤ教とは乖離があることが窺われた。今後、「民」のイメージを「民」に関する様々な術語の用法から明らかにする必要がある。 また、ツンツ、ガイガー、ベックら、ドイツユダヤ学の創始者の著作の分析を続けた結果、彼らが、ユダヤ学をユダヤ民族の自由の実現へのツールであると捉えていること、彼らのユダヤ学構築にあたって、「自由」の体現が通底するテーマになっていることが改めて示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
民主主義、デモクラシーの語源である「ディモス」のユダヤ教文献における分析を進めたことで、ユダヤ教におけるデモクラシーへの関心の薄さ、また、分析の過程で、ユダヤ教が理想とする「民」と「為政者」の関係が必ずしも同等の関係ではないことが推察されたことで、本研究の核に近づいたと考えられる。 特に、ユダヤ教が「民衆」「民」をどのように捉えているかという視座を与えられたことが意義深い。個々の文化、宗教における社会統制するシステムを分析する上での基軸-「民」「為政者」「社会」―につながる。 来年度以降、ユダヤ教における様々な「民」観を分析することで、ユダヤ教が「民」をどのような存在であるかをみているか、その変容と「デモクラティア」という用語の受容の相関関係について窺えるであろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究の重点は、3点ある。第1点は、民、民衆に関するさまざまな用語とそのニュアンスを探ることである。平成29年度の研究成果より得られた「民」のイメージを分析の切り口にするという視点を生かし、平成30年度は、ユダヤ教文献における様々な民、民衆に関する用語の分析を行う。民(アム)、大衆(ハモン)、公衆(ツィブリ)、共同体(カハル)他の用語の用法から、ユダヤ教文献における「民」のイメージを探る。 第2点は、19世紀末のユダヤ学における「民」「民衆」のイメージ、ユダヤ学における「デモクラティア」「デモクラシー」また「自由」についての言説を引き続き、収集し、総合的に分析することを続けることである。第3点は、平成29年度の研究成果で指摘された、中世ユダヤ教文献において「ディモス」の用法が「墓石」に限定されることについて、更に考察を深める。「墓石」が流用される場合の法的問題が議論の焦点になっているが、中世ユダヤ社会の構造的変化が根底にあったのかもしれない。また、それが、当該社会の公共の領域、公共の概念に影響した可能性も含めて考察する。また、中世においてごくわずかに散見されるいわゆる民主主義につながる「ディモス」の言説について再考をする。 また、平成29年度に口頭発表した論考を、論文として発表する。上記の平成30年の論考は、日本宗教学会他で定期的に発表する。
|
Causes of Carryover |
海外出張が1回であったこと、買い替えを想定してたPC機器類が、現状のもので維持できたので、その分使用額が抑えられた。次年度は、海外への資料収集、発表をかねて複数回出張を企画し、助成金を有効活用することを考えている。
|