2018 Fiscal Year Research-status Report
スコラ哲学における正義論の変遷-トマス・アクィナス以前・以後-
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16K02225
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Research Institution | Kagoshima Immaculate Heart College |
Principal Investigator |
佐々木 亘 鹿児島純心女子短期大学, その他部局等, 教授 (40211940)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 正義論 / 自然法論 / ケイパビリティ・アプローチ / スコラ哲学 / アクィナス / アンセルムス / アマルティア・セン / マーサ・ヌスバウム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は,主にカンタベリーのアンセルムスとアクィナスとの関係,および現代正義論とアクィナスの関係について研究を深め,学会などの場で精力的に発表した。 まず,アンセルムスとアクィナスの正義論については,9月に上智大学での日本カトリック神学会で「アンセルムスとアクィナスにおける正義論-他者の可能性をめぐってー」という発表を行い,同名の論文を投稿したところ,2019年9月に学会誌に掲載されることになった。また,10月には北海道大学でワークショップを開催し,そこで「アンセルムスとアクィナスの正義論における他者の可能性」という発表を行った。加えて,「アンセルムスによる神の存在証明-トマス・アクィナスとの関連から-」が『西日本宗教研究誌』第6号に掲載された。 これに対して,現代正義論との関連では,9月に「他者と共同善-アクィナス正義論の現代的可能性-」が『経済社会学会年報』第40号に掲載された。同月,慶應義塾大学での経済社会学会で「ケイパビリティと自然法-アクィナス・セン・ヌスバウム-」という発表を行った。また,同名の論文を投稿したところ,2019年9月に学会誌に掲載されることになった。11月,鹿児島哲学会で「ケイパビリティのリスト化は必要か-アクィナス・セン・ヌスバウム-」という発表を行った。加えて,1月に「ケイパビリティのリスト-マーサ・C・ヌスバウムのケイパビリティ・アプローチ」が『鹿児島純心女子短期大学研究紀要』第49号に掲載された。 さらに,1月には京都教育文化センターでの京都ヘーゲル読書会平成三十年度冬期研究例会で「法的正義と自然法-トマス・アクィナスにおける連帯性の根拠-」という発表を行った。2月には,3冊目の単著である『トマス・アクィナスにおける法と正義-共同体の可能性をめぐって-』が教友社から出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では,現代正義論との関連では,ヨハネス・メスナーを中心に展開する予定であった。しかし,メスナーは1984年に亡くなっており,現代正義論としてはいささか古いと言わざるを得ない。その一方,現代正義論として大きな注目を集めているのが,アマルティア・センとマーサ・ヌスバウムによって展開されているケイパビリティ・アプローチである。平成29年3月に神島裕子立命館大学教授による発表でヌスバウムのケイパビリティ・アプローチに触れて以来,精力的にヌスバウムの,センの,そしてイングリッド・ロビンズのケイパビリティ・アプローチについて研究を重ね,一年あまりの間に掲載が確定したものを含めると3本の論文を公表したことになる。正直に言って,これほど短時間にこれだけ業績が残せるとは考えていなかったので,予想以上の展開であると言うことができよう。 アクィナス以前の分野でも,アンセルムスを精力的に研究し,掲載が確定しているものを含め,2本の論文を公表することができた。今までほとんど研究したことがないアンセルムスに関して,これも短時間で学会発表や論文作成に至ったことは,予想以上の展開である。特に,平成30年度は3冊目の単著である『トマス・アクィナスにおける法と正義-共同体の可能性をめぐって-』の出版に向けた校正などの作業でかなりの時間を費やすことになった。その中で5回の学会発表と4本の論文作成を実現できたことは,大きな進展である。 ニュージーランドに出張して将基面貴巳オタゴ大学教授と研究打合せを行うことができた点も,今後の研究展開において極めて重要であった。アクィナス以後の研究に関して多くの助言をいただき,正義論におけるパドヴァのマリシリウスとアクィナスの関係について具体的な方向性を確信することができた。 以上の点を総合的に考慮するならば,当初の計画以上に研究が進展していると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,現代正義論の分野においては,ケイパビリティ・アプローチにアクィナス自然法論の新しい可能性を見出そうとする試みを,さらに進展させていく。具体的には,令和元年9月に熊本大学で開催される経済社会学会全国大会で,「ケイパビリティのリスト-アクィナス・セン・ロビンズ-」という題での発表を申し込んでいる。センとヌスバウム双方の主張をもとに自らのリストを提示しているイングリッド・ロビンズの議論を中心に,アクィナスにおける自然法の規定に即したケイパビリティのリストについて検討し,特に男女不平等の是正を実現するためには,どのようなケイパビリティのリストが必要であるかを模索していく。また,令和2年1月に発行される『鹿児島純心女子短期大学研究紀要』第50号に「ケイパビリティのリスト-イングリッド・ロビンズのケイパビリティ・アプローチ」という論文を掲載する予定である。 次に,アクィナス以前に関しては,令和元年7月に京都大学で開催される第258回京大中世哲学会研究会にて「他者としての神-アンセルムスとアクィナスにおける正義論-」という題で,また,9月に鹿児島教区本部で開催される日本カトリック神学会学術大会にて「アンセルムスとアクィナスにおける神の正義-『モノロギオン』と『神学大全』ー」という題で,それぞれ発表する予定である。両者の正義論は,究極的には神の正義をめぐって展開されているが,そこにどのような特徴が認められるかを明らかにしている。 さらに,アクィナス以後では,11月30日・12月1日に九州大学で開催される西日本哲学会第70回大会で,「アクィナスの自然法とマリシリウスの人定法-中世的普遍体制の終焉ー」という題での発表を予定している。 以上の研究計画を精力的に推し進めることにより,多くの研究成果が期待できるであろう。
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Research Products
(11 results)