2019 Fiscal Year Research-status Report
スコラ哲学における正義論の変遷-トマス・アクィナス以前・以後-
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16K02225
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Research Institution | Kagoshima Immaculate Heart College |
Principal Investigator |
佐々木 亘 鹿児島純心女子短期大学, その他部局等, 教授・図書館長 (40211940)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トマス・アクィナス / カンタベリーのアンセルムス / パドヴァのマルシリウス / アマルティア・セン / イングリッド・ロビンズ / マーサ・ヌスバウム / 正義論 / 自然法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、アクィナス以前としては、引き続きアンセルムスとアクィナスの比較研究として、9月の日本カトリック神学会(鹿児島ザビエル教会)で「神と正義-アンセルムスとアクィナス-」という発表を行った。また、「アンセルムスとアクィナスにおける正義論-他者の可能性をめぐって-」という査読付きの論文が『日本カトリック神学会誌』第30号に掲載された。加えて、「正義と受容能力-アンセルムスとアクィナス-」という論文が『鹿児島純心女子短期大学研究紀要』第50号に掲載された。さらに、「神と正義-アンセルムスとアクィナス-」という査読付き論文が、『日本カトリック神学会誌』第31号に掲載されることが決まっている。 現代正義論との関連では、7月の京大中世哲学研究会(京都大学)では「経済学におけるトマス・アクィナスの現代的可能性-ケイパビリティ・アプローチと自然法-」という発表を、9月の経済社会学会(熊本大学)では「ケイパビリティのリスト-アクィナス・セン・ロビンズ-」という発表をそれぞれ行った。そして、「ケイパビリティと自然法-アクィナス・セン・ヌスバウム-」という査読付きの論文が『経済社会学会年報』第41号に掲載された。また、「ロビンズのケイパビリティ・アプローチ-ケイパビリティ・アプローチの強みと弱み-」という論文が『鹿児島純心女子短期大学研究紀要』第50号に掲載された。 アクィナス以後としては、11月の西日本哲学会(九州大学)で「アクィナスの自然法とマルシリウスの人定法-中世的普遍体制の終焉-」という発表を行った。現在、同名の論文を西日本哲学会年報第28号に応募している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現代正義論では、当初ヨハネス・メスナーを取り上げる予定だったが、アマルティア・セン、マーサ・ヌスバウム、イングリッド・ロビンズのケイパビリティ・アプローチにおけるアクィナスの新たな可能性を探る方向に転換した。これまで経済社会学会を中心に5回学会発表を行い、4本の論文を書いており、今後この分野における書籍の刊行も視野に入ってきた。 アクィナス以前では、当初カンタベリーのアンセルムスとペトルス・アベラルドゥスを取り上げる予定だったが、後者にまとまった正義論が見られないということが明らかになったので、アンセルムスとアクィナスの比較研究に集中した。これまで日本カトリック神学会を中心に3回学会発表を行い、3本の論文を作成しており、今後も研究を精力的に進めていく。 また、アクィナス以後では、2019年11月に「アクィナスの自然法とマルシリウスの人定法-中世的普遍体制の終焉-」という発表を西日本哲学会第70回大会で行った。マルシリウスとの比較研究は中世と近世を結ぶものとして期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、アクィナス以前と以後、そして現代正義論を一冊の本にまとめる予定であったが、少々時間がかかっても、『アクィナス以前・以後』と『現代正義論』とは分けて出版を検討した方がより現実的であると思われるようになった。前者はあくまで思想史の研究であるが、後者はケイパビリティ・アプローチにおけるトマス・アクィナスの現代的可能性を探るという点で、従来の思想史研究の枠を超えるような内容になると期待される。 『アクィナス以前・以後』に関しては、もう少し論文が必要である。アンセルムスとの比較研究は順調に進んでおり、いろいろと興味深い共通点なども明らかになってきた。たとえば、アクィナスの正義論は基本的にアリストテレスに基づいているが、アンセルムスの時代、アリストテレスは一部しか知られていなかった。しかし、アンセルムスの正義論のうちにアクィナスの配分的正義に似た要素が認められるのである。一方、マルシリウスとアクィナスの比較研究では、法解釈がまったく異なっており、マルシリウスのうちに教会や宗教を相対的に捉える近代的な要素を見いだすことができる。なぜ短期間の間にこれほどまでの転換が可能になったのかを今後さらに探っていく。加えて、ウイリアム・オッカムの正義論に関する研究も開始する。今のところ、「ウイリアム・オッカムの正義論-パドヴァのマルシリウスとの比較から-」という論文を『鹿児島純心女子短期大学研究紀要』第51号に掲載する予定である。 『現代正義論』では、多くの注目を集めているケイパビリティ・アプローチを取り上げる。ケイパビリティのリストに関するセンとヌスバウムの対立から始まって、現在、かかるリストを、アクィナスにおける自然法の規定という視点から分析するというところまで研究は進んでいる。2020年度中の書籍化は無理であるが、そう遠くない未来に刊行できるものと確信している。
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Research Products
(8 results)