2016 Fiscal Year Research-status Report
「哲学の外部」をめぐる思想史―ハイデガー、ゲオルゲ・クライス、ベンヤミン―
Project/Area Number |
16K02226
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Research Institution | Tsuyama National College of Technology |
Principal Investigator |
稲田 知己 津山工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (70221778)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドイツ思想史 / ハイデガー / ベンヤミン / ゲオルゲ派 / 詩 / 秘められたドイツ / ヘルダーリン |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀前半のドイツ思想史を構想するとき、哲学の最深部を暗黙のうちに規定しながら、それゆえかえって哲学的言説の内部では明示しえない「哲学の外部」があることに気づく。それは、「詩」であり、とくにヘルダーリンやゲオルゲが重要だった。この点をユダヤ系のベンヤミンを参照軸としながら、ハイデガーにおいて検証しようとするのが、本研究である。つまり本研究の目的は、ゲオルゲ・クライスに関するハイデガーとベンヤミンの哲学的言説を追跡することによって、「哲学の外部=詩」という秘められた思想史的連関を明るみに出すことである。 本研究は、思想史研究として、新歴史主義的な研究方法を採用する。それによれば、どんな偉大な哲学書であれ、時代といった巨大な物語テクストから、同時代の文学作品等の周縁的テクスト群をも学際的に配慮しつつ、通時的に読解されるのでなければならない。このような方法にしたがって、本研究は、20世紀初頭にゲオルゲ・クライスのうちで生起した「ヘルダーリン復興」というドイツ思想史において看過しえない出来事に着目し、その出来事が投げかけたハイデガーやベンヤミンへの波紋を徹底的に追跡し、「哲学の外部=詩」という秘められた思想史的連関を明らかにしていく。 以上の研究目的と研究方法によりながら、本研究は、主として海外現地調査を実行し、貴重な歴史的資料を収集してきた。とりわけ、ゲオルゲ派の「精神運動年鑑」等の古雑誌、後期ヘルダーリンを発見した文献学者ヘリングラートの遺著等、およそ1世紀前の文献を現地で渉猟することによって、本研究を着実に前進させている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、約1カ月間のドイツ滞在を行い、おもにマールバッハ文学文書館(ハイデガーの手稿あり)やビュルテンベルク州立図書館(ゲオルゲ・アルヒーフとヘルダーリン・アルヒーフあり)、バイエルン州立図書館、ベルリン州立図書館、ライプツィヒのドイツ国立図書館で、関連する稀覯本を渉猟することができた。 「哲学の外部=詩」を主題化する本研究にとって最も重要な基礎文献は、1916年に戦死したヘリングラート関連のものである。ハイデガーもベンヤミンも愛蔵したヘリングラート版ヘルダーリン全集をはじめ、博士論文「ヘルダーリンによるピンダロス翻訳」や二つの講演(「ヘルダーリンとドイツ人」および「ヘルダーリンの狂気」)などがある。 これまで本研究は、ヘリングラートのこれらの遺著の全容を解明するとともに、ゲオルゲ派の代表的な論者であるグンドルフやコメレルにまで探索の手を広げることができており、当時の「ヘルダーリン・ショック」という思想史的出来事を新歴史主義的に着実に究明しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も本研究は、ゲオルゲ・クライスにかかわる歴史的資料をさらに収集することによって、当時の時代の再構成をめざす。ゲオルゲ派には、後のヒトラー暗殺計画の首謀者もいれば、反ユダヤ主義者もいた。後者に属すものに、生の哲学者クラーゲスもいた。彼はヘリングラートは熟知の間柄だったし、奇妙なことに、ベンヤミンが最も高く評価した哲学者がクラーゲスだった。ハイデガーも彼について「黒ノート」のなかで何度か言及している。このクラーゲスも研究対象に新たに加えたい。 また本研究が一貫して重要な情報源と考えているのは、「雑誌」である。雑誌には「時代精神のアクチュアリティ」(ベンヤミン)が宿っているから。本研究は、ゲオルゲ派の「精神運動年鑑」のみならず、今後も当時の雑誌類を発掘することによって、過去の時代精神を如実に物語るような豊かなイメージ群を探索していきたい。
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