2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K02232
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小田部 胤久 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (80211142)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 共通感覚 / 古典概念 / 美的生活 / 範例性と独創性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究は、大きく三つに別れる。 第一に、2017年度末にドイツ・ワイマールで報告した「日本における古典概念」に関する研究をさらに進めた。「古典」という概念は19世紀末から20世紀初頭に日本において確立するが、この概念には記述的、様式的、規範的という三つの次元があること、それらのいずれもが西洋の同時代の理論の受容(さらにはその変容)から生まれていること、この点を明らかにした。「古典」概念は美をめぐる「共通感覚」を根底から支えるものであり、本研究課題にとっても枢要な位置を占める。その成果は、日本ヘルダー学会大会、ならびに北京で開かれた世界哲学会議でのシンポジウムにおいて報告した。 第二は、2015年度から始めている「美的生活」に関する研究にかかわる。今までは主として近代日本における「美的生活」概念の検討を行なったが、2019年度はこの概念を自らの美学理論の中心に位置づけたシラーの「美的教育論」を、改めて「美的生活」という観点から検討した。「美的生活」という語はシラーの論考において一度しか出てこないために、従来の研究ではこの概念に光が当てられることはなかったが、本研究は「美的生活」という概念こそ「芸術」と「生活」とを結ぶ要であることを明らかにし、カント・シラーの「共通感覚」論を捉えるための新たな視点を示した。その成果は、中国北京の首都師範大学で行われた国際会議において報告した。 第三に、シェリングにおける範例性と独創性をめぐって、研究を進めた。共通感覚のいわば支配する古代の範例性と、共通感覚からの逸脱によって特徴付けられる近代の独創性との関係について、当時のホメロス論争(ホメロスは一人か否かをめぐる論争)などにも立ち入りつつ、新たな視点から接近し、その成果を日本シェリング協会大会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の成果は、4回の学会報告において提示した(そのうち英語が2回、ドイツ語と日本語で1回ずつ)。また、論文も3本公表し(英語が2本、ラテン語の校訂を行なった論文が1本)、また、2019年度に報告する予定の原稿3本のうち2本の準備をかなり進めることができた。 ただし、個々の研究がその都度の学会での報告(その多くは主催者から課題を与えられたものである)とかかわるため、領域的に多様ではあったが、一つの論点をより深めるために十分な時間を取ることができなかった。2019年度はこの点に注意をして、より集中的な研究を心がけたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、5つの学会において発表する予定である。 第1は5月に東大駒場で行われるフンボルト・コレークでの基調講演であり、18世紀の美学理論を経験的心理学という枠組みから新たにとらえかえす予定である。第2は6月の国際シュレーゲル協会主催のロマン主義に関わる国際会議であり、ここでは2018年度の「範例性と独創性」をめぐる研究をより深める予定である。第3は7月の国際美学会議における報告であり、ここではカントの美学理論の中心的概念である「無関心性」について、従来とは異なる視点から扱う予定である。第4は10月のシェリングの芸術哲学に関する国際会議であり、ここでは2018年度に行なったシラーの「美的生活」論をより深める予定である。第5は(まだ詳細は未定であるが)11月に釜山で開催される予定の美術史とグローバル化をめぐる国際会議であり、そこでは、2018-19年度に行なった近代日本の「古典」概念に関する研究を、さらに時代を遡り発展させる予定である。
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