2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀のキルギス共和国とカザフスタンにおけるアクン技芸
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16K02235
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
ウメトバエワ カリマン 東京藝術大学, 音楽学部, 助手 (70771989)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アクン技芸 / アイトゥシュ / 中央アジア / 復興 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、キルギス共和国とカザフスタンにおけるアクン技芸の現状を把握するために、現地調査を実施するとともに、録音・出版物の収集・分析を行った。 2016 年9月5日から10月16日にかけて、キルギス共和国の首都ビシュケクとカザフスタンの首都アスタナおよびアルマティにて、インタビューを試みた。ビシュケクでは、若手のアクンを育成するための「アイトゥシュ」学校の教員兼現役アクンであるA.クトマナリエフ(1966-)やE.イマナリエフ(1978-)、この学校に通う生徒にインタビューをとり、授業の様子を録音・録画をすることできた。カザフスタンでは、アスタナ国立芸術大学附属アイトゥシュ研究所の所長であるR.アルムハノワ (1964-)と、2014 年に同大学の伝統音楽芸術学伝統歌学科に設立された「アイトゥシュ専攻」の教員兼現役アクンであるE.カイナザル(1984-)にインタビューをとり、彼らを通してアスタナとアルマティで活躍している他のアクンとのネットワーク形成に努めた。調査から、E.ジュルスン (1951-)という人物が、ソ連時代から今もなおアクン技芸の復興運動に従事し続けており、かつこの分野における第一人者であることが明らかになり、さらに、アルマティにてジュルスンにインタビューを取ることができた。加えて、2016年12月には、アルマティで開催された「アルティン・ドムブラ」というアイトゥシュ(全国アクン大会)を見学し、今注目されている約 50 人のアクンの演奏の録音・録画をすることができた。 以上の調査から、カザフスタンではキルギスよりもアクン技芸とその研究が活発に行われていることが明らかになった。また、そのことについては、「ソ連崩壊前後のクルグズ共和国とカザフスタンにおけるアイトゥシュ/アイトゥスの復興」(『ユーラシア研究第56号』、2017年6月刊行予定)という論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度はビシュケク、アスタナとアルマティでの現地調査に重きを置き、アクンの技芸に携わる様々な人の話を聞くことができた。また、数多くの演奏会やコンサートを録音・録画し、貴重な資料を集めることができた。加えて、現役のアクンだけではなく、アルマティ音楽大学、アスタナ芸術大学、アスタナのグミリョフ・ユーラシア国立大学に所属するアクン技芸の研究者たちの協力を得、情報交換を行った。特に、カザフスタンでの調査は初めてで短い期間であったにもかかわらず、当初の予想以上にアクン技芸の現状を把握することができた。一方で、アクンの多くは男性で、保守性の高いコミュニティを形成していることもわかり、そのため女性である申請者は彼らに接触しインタビューを取ることは容易ではなかった。そのため、平成29年度もアクンとその関係者との連絡を密に取り、長期的な接触を図っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年度の研究活動は主に日本で行い、キルギス共和国とカザフスタンで収集したインタビューを整理・文書化し、これまで録音・録画した演奏資料から現在におけるアクン技芸を分析する。また、ロシアの東洋学者であったA. ザタエヴィチ(1869-1936)とV. ヴィノグラドフ(1899-1993)の文献を参考にし、昨年度にキルギスとカザフスタンで行った現地調査とソ連設立以前のアクン技芸との比較を行い、音楽的側面からその相違点と共通点を考察する。 本年度の研究目的は、語り物 oral narrativeとしてのアクンの技芸の音楽的構造を分析することにある。この目的を達成するには、アルバート B. ロード『物語の歌い手』(1960)で用いられている口頭形式理論 oral-formulaic theoryを参考しながら、『日本の語り物:口頭性・構造・意義』(2002)で取り上げられている平家、能、浄瑠璃、浪花節、座頭琵琶、ゴゼ歌の音楽構造を見通すモデルや分析方法を参考にし、アクン技芸の分析を試みる。 さらに、アクン技芸を理解するには、音楽学だけではなく、歴史学と人類学からの側面から検討する必要がある。京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科の帯谷知可准教授の研究室に通い、先生からご指導・ご助言を頂く。加えて、カザフスタンのアイトゥシュを通し、文化と政治経済の関係について人類学の視点から論じたエヴァ=マリー・ドゥブイソンの博士論文「声の価値:カザフのアイトゥス詩における文化・批評」(2009)を参考にし、研究を進める。 以上の研究経過・成果については、2017年11月に沖縄で行われる東洋音楽学会や、2018年3月に江ノ島で行われる日本中央アジア学会にて口頭発表を行う。また、『日本中央アジア学会』や『東洋音楽研究』などの学会誌に論文を投稿する。
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Causes of Carryover |
2016年12月にアルマティで「アルティン・ドムブラ」というアイトゥシュ(全国アクン大会)を急遽見学することになり、次年度予算の300,000円を前倒ししたが、その金額を使いきれなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
二年度にキルギス共和国とカザフスタンで再び現地調査を行うための予算に充てる。
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