2016 Fiscal Year Research-status Report
能の略式演奏の歴史と現在―新しい演出形態を構想するために
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16K02245
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
高橋 葉子 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 客員研究員 (20766448)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 隆則 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 教授 (20209050)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 素人愛好家の歴史調査 / 能玄人の演奏理念および演奏慣習の調査 / 江戸後期以降の謡の音楽的変遷の解明 / 近代謡本の系統の解明 / 能の伝承における自得と「素」の概念 |
Outline of Annual Research Achievements |
能の略式演奏の歴史的側面からの研究として、以下の調査を行なった。(研究代表者・分担者)1、数代にわたる京都在住の能の愛好家三組に聞き取り調査を実施し、謡、囃子、舞などの略式演奏の享受と伝授、自得の実態を取材した。素謡などの略式演奏が市民に浸透し発展した、京都ならではの素人の活動実態が明らかになり、能を中心とした社交文化についても資料を得ることができた。 2、能の演奏習慣、儀礼、演奏理念、略式演奏法の実例と変遷を論題として、玄人能役者一名に聞き取り調査を実施した。外部からは窺い難い儀礼や慣習、伝統を受け継ぐ者としての演奏理念など、貴重な証言を得ることができた。また省略演奏の実態について、現代に生きる演奏者としての意見をいただいた。1、2ともに補足調査と記録化作業を継続中である。 また研究代表者は技法的・理論的側面からの研究として、以下の成果を得た。1、江戸中後期の謡の音楽理論構築の過程を、京都の謡教授家である岩井家の資料から明らかにした。成果は京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター紀要第13号に発表した。2、江戸後期から近現代のかけての、謡のヨワ吟中音部の旋律変化と記譜体系の変化を、明和改正謡本や観世家および岩井家資料等にもとづいて解明した。成果は東洋音楽学会第67回大会にて発表し、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター紀要第14号に掲載予定(H.29年6月)である。 3、近代観世流の代表的謡本である観世宗家、観世喜之家、梅若家の6種の本の系統を記譜法の点から明らかにした。成果は武蔵野大学能楽資料センター紀要第28号に発表した。 分担者は能の教授における自得のシステムを歴史的に考察して、能の伝承における「素」と「素人」のもつ重要性を提起し、神戸女子大学古典芸能研究センター紀要第10号に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に行なった愛好家への聞き取り調査は、能の享受の歴史的様相について、また省略演奏の実際についての有効な資料を得ることができた。また玄人への聞き取り調査では、演奏理念と、それに基づく演奏・演出のあり方について、現代的な問題として示唆を得ることができた。今年度さらに内容の検討と補足調査を行なうことで、記録としての充実化を図ることができるだろう。 近代の謡の技法・理論研究においても、実証的な成果を得ることができた。また社会の近代化に伴う記譜法の体系化の道程や、家元制度にによる謡の旋律の統一という、音楽変化における社会的側面を明らかにすることができた。これらは略式演奏の歴史的研究であるとともに、現代の謡や能の表現、演奏形態の規定的あり方にも通ずる問題として、現代的意味を持っている。また能の伝授と自得の歴史についても研究を深めた。聞き取り調査、理論研究のいずれも、本研究が目標とする、能楽の将来のありかたを考えるための基礎研究として、有効に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は玄人への聞き取り調査を追加し、略式演奏の実践と可能性、演奏理念について引き続き資料取集を進める。最終年度の報告書に向けて記録化を行なう。 略式演奏形態の外観と理念について、昨年度完成しなかった一調、素謡、舞囃子の歴史的変遷の研究を引き続き進める。略式演奏独自の創造性や深化、形態上の変化、それらの音楽的、社会的意味を明らかにし、現代の愛好家、玄人への聞き取り調査の結果とあわせて、現代にいたる略式演奏の歴史的位置付けを行なう。最終年度の、略式演奏の今日的可能性の提言を射程に入れた資料作りを行なう。
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Causes of Carryover |
調査出張予定1回を延期したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
能楽師インタヴューの謝礼に使用の予定。
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