2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02252
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Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
白石 美雪 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (60298023)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本の音楽評論家 / 日本の音楽批評 / 音楽論壇 / 大田黒元雄 |
Outline of Annual Research Achievements |
4年にわたる研究の第3年度として、本年は初年度、第2年度に続いて、7名の音楽評論家(福地桜痴、成島柳北、伊澤修二、大田黒元雄、山根銀二、吉田秀和、遠山一行)の業績調査を行い、「職業としての評論家」がどのような理念をもって批評を書いたのか、また、それが時代とともに変化していった様子を調査した。とくに成島柳北と大田黒元雄の執筆について集中的に読解し、これまでの研究と照らし合わせながら、それぞれの特徴を分析した。明治期には文明開化を背景として社説に音楽のことを書き、やがて技術批評へと一歩、進んだ福地桜痴や、趣味的に音楽を聴き、中国古典の語句を混入させた文章力で際だった成島柳北が日本の音楽と洋楽を並べて論じていたのに対して、大正期に入ると洋楽についての本場での体験を踏まえた情報と、多くの人たちに話しかけるような語り口によって読者を獲得した大田黒元雄からは洋楽一辺倒の価値観に基づいて批評が書かれるようになったことを確認した。 音楽論壇そのものの成立についての調査としては明治期の音楽専門雑誌の調査に取り組んだ。日本で最初の音楽専門雑誌『音楽雑誌』(のちに『おむがく』)は復刻版を利用し、内容についての全貌を把握した。そのほか明治期に刊行が始まった『音楽の友』『音楽新報』『音楽界』『音楽世界』『月刊楽譜』についての専攻研究を調べると同時に、実際の雑誌の調査を始めたが、現在も続行中である。 集団としての音楽論壇、とりわけ「職業としての音楽評論家」について明確化するため、近代日本主要音楽評論家一覧(データベース)の作成を継続した。 本研究の成果は図書として刊行する予定となり、本年度においては学会発表や論文投稿よりも図書原稿の作成を主眼として作業した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年度と同じく、7人の代表的な評論家のそれぞれについて、著作や新聞の批評、雑誌記事などの形で残した著作に一通り目を通す作業に時間がかかっているものの、とくに集中的に大田黒元雄の著作を取り上げて分析を行った。さらに、当初は予定していなかった明治期から大正期にかけての音楽雑誌についての調査を進めている。これらの雑誌調査を含む本研究の成果については、単行書とする予定で執筆作業を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も資料収集については、研究協力者を依頼して、より広範な形で実施する。第4年度にはこれまでの調査結果と考察を著作の形で示す。具体的には明治期から大正期、昭和期にかけての音楽専門雑誌の系統的分析、1936(昭和11)年に文部省が設置した日本諸学振興委員会芸術部会と東洋音楽学会、東京芸術大学楽理科の開設と日本音楽学会の発足に関する調査を行う。さらに吉田秀和、遠山一行の批評について集中的に調査・分析を行う。 本研究の成果は来年度までに刊行する予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度は当初、調査予定だった7人の評論家のうち、2人に集中して分析を行ったため、研究協力者を依頼しての網羅的な調査のための人件費が予定より少額となった。また、研究者自ら調査するため、地方に出かける時間が少なく、一部については地方からの資料取り寄せもネットで可能だったことから、旅費も使用額が少なかった。 2019年度は研究協力者にさらに広範な資料収集を依頼して調査を行うための人件費、および評論家の著作を入手して調査するため書籍類の購入費、また、研究者による地方への出張調査で旅費を使用する計画である。
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Research Products
(2 results)