2022 Fiscal Year Annual Research Report
The Establishment Process of Music Critic as a Profession in Modern Japan
Project/Area Number |
16K02252
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Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
白石 美雪 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (60298023)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本の音楽評論の歴史 / 音楽論壇 / 東京藝術大学楽理科 / 遠山一行 / 吉田秀和 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の調査としては次の二点を重点的に調べた。一つには第二次世界大戦後の東京藝術大学の成立と楽理科の発足の経緯である。東京音楽学校にはなかった楽理科が新制大学として成立した当初から置かれた背景を、すでに公刊されている『東京藝術大学百年史』の膨大な資料、および戦時下の雑誌統廃合で成立した『音楽芸術』誌上における東京音楽学校の改革論の展開から分析した結果、東京藝術大学音楽学部楽理科は戦後教育改革なしには成立しないものであったと捉えることができた。楽壇と音楽学校を揺るがす戦犯論争、旧制専門学校から新制大学へのアカデミズムの期待と葛藤というミクロな激動は、日本全体を揺るがした公職追放・教職追放と日本国憲法下の新しい制度とモラルの確立という戦後改革の縮図であった。さらに、音楽評論家が高等教育機関で音楽学の専門教育を経て要請されるという新たなモデルの成立を確認できた。 第二に、二十世紀後半を代表する音楽評論家として、遠山一行と吉田秀和を取り上げ、彼らの評論活動を方向づけた初期に遡り、全体像を把握した。戦時下の学生時代を経て、戦後復興から高度経済成長期まで、近代の自我という西洋的な理念を軸に展開された二人の評論は、きわめて近似的でありながら、方法において、差異も認められた。 本研究では、職業としての音楽評論家の成立という観点から、音楽評論家の集団としての「音楽論壇(楽壇)」の成立に着目し、最初の音楽専門雑誌である『おむがく』から大正時代の『音楽と文学』、第二次世界大戦下での日本諸学振興委員会と東洋音楽学会の動向まで、評論が近代西洋音楽の社会への定着に果たした役割とそれらの機能を明らかにした。さらに、近世からの教養人や近代高等教育機関の文学・美学分野の卒業者が中心であった音楽評論家の養成プロセスとして、戦後に加わった東京藝術大学楽理科の開設の経緯を解明した。
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Research Products
(2 results)