2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02258
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
大河原 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 客員研究員 (80401503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮廻 正明 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 教授 (40272645)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70443900)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本画 / 上村松園 / 縮図帖 / 下図 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は本画作品の科学調査を中心に、描画表現についての考察を行った。調査できた作品は、東京国立博物館所蔵「焔」(1918年・〈大正7〉年、松園43歳)、JR西日本所蔵奈良ホテル保管「花嫁」(1935年・〈昭和10〉年、松園60歳)の2点で、蛍光X線分析、顕微鏡画像撮影、赤外線撮影を実施した。 「焔」からはいわゆる伝統的な画材のほかに、クロムやケイ素などが検出された。顕微鏡撮影で確認した技法としては艶墨を用いて瞼や黒目、お歯黒を光らせる、白目部分に金泥を用いるという松園独特の質感へのこだわりが感じられた。また絵の具層は薄く、絹目が露呈するほどながら、美しいグラデーションが作られている様子も見られた。 「花嫁」は、主に帯部分の黄緑からケイ素やクロムなどが検出された。赤色から検出された元素は1種類だが、目視認識では5種類ほどの違いがあった。彩色技法では、黒無垢の手前部分(絵画空間のなかで鑑賞者に近い場所)には絵の具を厚くぬり、影や奥になる部分は薄めに塗る傾向がみられた。こめかみの髪の生え際部分では、顔の白色グラデーションからほぼ絹地に移り変わり、そこから具墨や艶墨で髪の描き起しを行っている様子がうかがえた。細部の質感へのこだわりとしては、唐織帯の織糸のふっくらとした量感や鈍く光る質感、びらびら簪に雲母を使用して立体感と艶感を出していた。高年期の作品で技術的にも円熟していると思われ、必要最低限で最大の効果を生むような絵具の使用感であった。 縮図帖については新たに6冊分の分類を開始した。主に墨線による模写と色彩名の書き込みが多く、モチーフと文字の種類の分析を進めている。模写部分の原本特定は来年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上村松園の重要な作品である「焔」の調査を実施するとともに、学会での発表(2018年6月)を行うことができた。その結果から、次の作品調査への手がかりを得ることができた。 また熟年期の作例「花嫁」の調査を行い、「焔」と比較して顔料の使い方、表現方法について知見を得た。 縮図帖調査は手元にあるデータの文字読み取り作家の意向をよみとる手がかりとなる出現回数の分析が完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
松園が円熟期に入る前、30~40代に希求した精神的表現の結論となった「焔」にいたるまでの作品「花がたみ」と「遊女亀遊」に焦点をあてて、顔料調査、顕微鏡調査、技法の調査を行う。調査結果に基づき、表現が精神的深まりみせた過程について明らかにする。また、謡曲や能の演目を調査し作画に与えた影響を考察する。 縮図帖は模写の原本特定と記載内容についての考察を進めるとともに、研究成果として縮図帖の図解書を作成するための編集作業を行う。
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Causes of Carryover |
縮図帖の調査に時間がかかっていたため、人件費の支払いが後れていたが、2017年度半ばより順調にすすみはじめたので、2018年度は計画通り使用する。
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Research Products
(1 results)