2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02258
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
大河原 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 客員研究員 (80401503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮廻 正明 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 講師 (40272645)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70443900)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本画技法 / 上村松園 |
Outline of Annual Research Achievements |
上村松園が活躍した近代日本画壇では、西洋絵画の影響と大会場での公募展覧会を発表の場とする新潮流が興り、近世までの絵画と比較して作品が巨大化した。巨大化した画面に対応するように新しい材料、技法、表現が生まれたと考えられる。しかしこれまで、その新しい技法表現に関する学術的な研究はほとんどされてこなかった。 明治から大正期の日本画材について少しずつ新知見が蓄積される中で、同時代の中核となる画家、上村松園の技法材料とその表現を調査分析し、芸術性を技術面から解明する必要性を大きく感じるようになった。また、上村松園作品の多くが制作されてから100年前後を経過し、平成28年度には「序の舞」東京藝術大学大学美術館所蔵(国指定重要文化財)が修復されるなど、作品群が修復時期を迎えつつある。この現状を踏まえ、松園の技法を分析することは作品をよりよいコンディションで修復するために必要不可欠となっている。また、技法や表現を解明するには、画材の科学的な分析に加えて、日本画実技に立脚した技法の実証実験による結果を集積することが重要であると考える。 本研究では、スケッチ、模写、下絵、本画作品を調査し、上村松園の使っていた技法とその表現の種類について分析する。それを日本画実技による再現実験によって検証し、松園の技法と表現の特徴を明らかにしたい。さらに、技法材料の同定、絵画構造、表現効果の研究成果は所蔵先の博物館及び美術館と共有して、作品展示や修復に活用できることを期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「焔」の調査結果は第40回文化財保存修復学会にて発表した。科学調査結果を提示するとともに、顕微鏡写真から観察されたぼかしや塗重ねなどについて考察を述べた。また、制作年である1918年の文展図録掲載画像と比較し、現在黒色を呈している打掛の蜘蛛の巣模様が、本来は銀色をしていることが判明した。それによって、本作を現在見て感じる重さや精神的な暗さが、作家の意図したものより強く出てしまっていることが明らかになった。また、制作からかなり後年に発行された作家のエッセイでは裏彩色を行ったという言葉があったが、顕微鏡による観察から、すべて表から彩色されていることが確認された。 「花嫁」の調査報告は、JR西日本奈良ホテルへの報告書としてまとめた。調査時に額を外したことで、素絹と思われていた背景の絹地にうっすらと薄墨と思われる下色が塗られていたことが分かった。本作にも裏彩色はなく、表からの重ね塗りであった。これら2点の調査結果と、他の松園作品の修復に携わった修復者の発言を根拠にすると、40歳ごろ以降の松園作品で裏彩色は用いられていないということになる。ほとんどの絵絹作品には裏彩色が使われていると考えられてきたことについて、検証しなくてはならないことが分かった。 縮図帖全7冊については、調査分析が完了した。すべての文字を書起こし、描かれたモチーフを分類し、模写については原本の特定をできる範囲で行った。描き込まれた色名には頻度にばらつきがみられ、作家の感度が高い色相は赤、白、黒であることが伺えた。
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Strategy for Future Research Activity |
図帖全7冊についての調査分析結果をPDF化してPC、タブレット上で画像の拡大縮小、キーワード検索による選択表示閲覧ができる方法を試験している。これらは所蔵美術館での活用を目指している。デジタル上での表示種手法については未完了のため、来年度研究期間延長を行い使いやすいものを完成させる予定である。
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Causes of Carryover |
PDF化した分析結果をデジタル書籍にするための様式の考案と、それを使用する美術館側の使用感の調整に予定より時間が必要になったため。
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