2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02262
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
芳賀 京子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (80421840)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / 彫像 / 英雄 / 死者 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は古代世界全体を対象として各時代における「英雄」のあり方を広く考察し、その成果を反映させて著書『西洋美術の歴史1 古代』を執筆、出版した。 ミュケナイ時代や原幾何学様式時代における祖先崇拝は、英雄崇拝の原型とみなすことができ、歴史時代のギリシアにおける英雄の墓や英雄崇拝と密接に関係している。幾何学様式の美術に個別の英雄の表象を見分けることは難しいが、死者を顕彰する表現は英雄崇拝の影響下にあると考えられる。英雄図像の形成は、前7世紀に神話の英雄による怪物退治の表現とともに進んでいった。その表現は工芸品だけでなく、神々の偉大さを示すべく神殿にも表現されている。これらは英雄の冒険譚を描くことへの興味だけではなく、神々、英雄、人間というヒエラルキーを美術においても明示し、信仰を確認することが、当時の人々の関心事であったことを示している。 前6世紀から前5世紀は、各地で新たな英雄信仰が創始されるとともに、崇拝対象としての英雄像が次々とつくられた時代だった。新たな信仰の確立の契機としては、各地を襲う穀物の不作や疫病の流行があげられる。共同体を襲う災厄が特定の死者の祟りとみなされ、それを鎮めるために死者の造像とそれに対する祭祀が始められたケースを抽出することにより、人の像をつくるという行為と、その人間を英雄化する意味合いを結びつけ、ギリシアにおける造像の意味を考察した。 ヘレニズム時代に入ると、君主たちはアレクサンドロスにならって自分自身を英雄化する。ローマ時代には、それが皇帝の神格化へとつながった。そのプロセスには、彫像制作が重要な役割を担っていた。皇帝の肖像彫刻の伝播は、皇帝崇拝の拡大として捉えることができる。申請者は初代皇帝アウグストゥスの肖像コピーを3Dモデルを用いて比較することにより、その伝播の具体的な側面を明らかにし、平成29年度に口頭発表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献に基づく調査・研究は十分に推進することができた。その一方で、初期ギリシアにおける英雄表現の研究のために計画していたギリシアのペロポネソス半島への調査旅行は、アメリカやロシアで開催されていた展覧会のためにいくつかの重要な作品が貸し出し中だったこともあり、調査日程があわず、次年度に調査を延期した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度には、昨年度不在だった作品は博物館に返却されている予定である。また、たとえ不測の事態によりいくつかの作品が不在だとしても、ギリシアへの調査旅行は行うこととする。その調査に基づいて、アルカイック時代~クラシック時代における英雄の表象に関する研究を重点的に推進する。 最終年度には、それまでの成果をまとめ、論文を執筆する。
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Causes of Carryover |
平成28年度の夏に計画していたギリシアのペロポネソス半島への調査旅行が作品不在のために延期となり、旅費やそれに伴う物品費を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度9月に、延期となっていたギリシア調査旅行を行い、初期ギリシアにおける英雄崇拝の高まりとその表象についての研究をすすめる。たとえ不測の事態によりいくつかの作品が不在でも、とりあえず調査を行うこととする。
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Research Products
(6 results)