2016 Fiscal Year Research-status Report
ローマを訪れた北方芸術家の人的ネットワークに関する研究
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16K02272
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
深谷 訓子 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (30433379)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | バロック / パトロネージ / 祭壇画 / カラヴァッジスム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は17世紀初頭のローマにおいて、オランダ人画家たちが如何に同地の人脈のなかに足場を見出し、激しい競争のなか注文を獲得していったか、その過程を詳らかにすることを目的としている。その際、着眼点のひとつとしているのが、17世紀第1四半期のローマにおける親スペイン派のネットワークである。当時の教皇パウルス5世はスペインの後押しをうけて即位しており、甥のシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿とともに、折に触れてスペイン人勢力を厚遇した。 そうした背景を踏まえ、本年度は、オランダ出身でローマを訪れたユトレヒト・カラヴァッジストのイタリアにおける最初期の活動の解明にあたった。既にファン・バビューレンのリベラとの関係や、彼のローマにおける最初のパトロンがローマにおけるスペイン王の代理人であったことなどは明らかにし、本研究開始以前から論文として発表していたが、その後の調査により、ファン・ホントホルストにローマで大祭壇画の注文を与えた人物もスペイン人で、かつボルゲーゼ家との密接な結びつきがあることが明らかになってきた。若い画家たちと、親スペイン派の人びととを結び付けた直接のきっかけは、現状では推測にとどまっているが、おそらく教皇ならびにシピオーネ・ボルゲーゼに仕えた彼らと同郷の建築家だと思われる。また、テル・ブリュッヘンがナポリで制作した作品に関するヴェーバーの研究は、彼もまた、制作過程でスペインの先例を参照していたことを明らかにした。今年度は、このように自身の調査や先行研究の精査から得られた新知見を論文として提示するために必要な追加の調査、細部の検証などを遂行した。また並行して、当時の複雑な政治状況やローマにおけるスペイン人勢力の具体的な活動・構成員などをより明確に把握するための資料収集や先行研究読解も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
遅れの理由は2つある。まず、連携研究者として参加していた他プロジェクト2件の最終年度と重なり、その研究成果取りまとめに予定以上に時間がかかり、本研究課題に当初予定ほど時間が使えなかったということがあった。第二に、前半は順調に進捗していた調査が、状況証拠以上の実証的手がかりを探し求めるという難しい局面にさしかかり、調査は進めているものの確証につながる情報が見つからない状況が続いているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の調査結果がある程度質量ともに適切なまとまりを成しつつあるため、2019年度中にユトレヒト・カラヴァッジスト3人のイタリアにおける初期の活動とスペイン人脈について取りまとめた論文を執筆する。 一方で課題として浮上しているのが、極めて複雑な実相を伴った膨大な情報を、如何に分析し理解するかという問題である。確かに人的ネットワークは存在し、それとの関係で作家たちが如何に動いたか、制作への反映はあるのかということは追求すべき問題だが、当然のことながら本研究が対象とする人的ネットワーク自体が明確な輪郭を持つものではなく、可変的だということである。そのため2019年度中は、論文執筆以外についてはあえて拡散も覚悟の上で、可能な限り多くのケーススタディと全体状況の把握に努める予定である。それにより当時の慣行や、パトロン・画家たちの行動・判断に関する「可能性の幅」を明確化することを試みたい。ケーススタディの対象は、(1)オランダ人画家の受注制作(祭壇画/フレスコ画による風景画)、(2)(比較例として)スペイン人画家(リベラなど)、フランス人画家の、1610年代の受注制作を最初の出発点とする予定である。
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