2017 Fiscal Year Research-status Report
明治時代京都の工芸とそのイギリスにおける受容と相互影響に関する研究
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16K02274
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
野口 祐子 京都府立大学, 文学部, 教授 (80128769)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 明治の工芸 / 国際京都学 / イギリス / V&A博物館 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年間の調査研究の2年目として、文献調査では、平成28年度に大英図書館で渉猟調査した文献の一部についてリプリント版を入手して、引き続き京都の工芸に関する言説を分析した。4月には研究協力者であるロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館のシニア学芸員、グレッグ・アーヴィン氏が京都を訪問時に、並河靖之七宝記念館学芸員の武藤夕佳里氏と共に、明治時代のイギリスにおける並河有線七宝の受容について研究会を開いた。 8月には研究代表者がイギリスで調査を行った。調査の目的の一つは、並河家に現存する文書との照合を図るため、大英図書館でイギリス人による旅行記を渉猟し、並河家を訪問した記述を探すことであった。目的の2つ目は、グレッグ・アーヴィン氏の協力を得て、ヴィクトリア&アルバート博物館と作品の収蔵施設であるBlythe Houseでフィラデルフィア万国博覧会に日本が出品し、イギリスがすべてを購入した日本陶磁器コレクションを実見調査し、作品の購入に至る文書を閲覧することであった。その際、ひとつひとつの作品が同館に収蔵されるに至るストーリーに注目した。その成果の一部は「ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵の1876年フィラデルフィア万国博覧会に展示された日本陶磁器コレクションに関する調査について」(『京都府立大学学術報告 人文』第69号、pp. 99-112、平成29年12月)において報告した。目的の3つ目は、イギリスの美術館、博物館にどのような日本の作品が所蔵・展示されているかを実見することであった。ヴィクトリア&アルバート博物館での展示品の入手時期、入手方法と現在の展示・解説のしかた、収蔵のしかたについて詳しく確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の予定どおり、文献調査と実見調査の両面から研究課題の解明を進めた。 文献調査から、1876年フィラデルフィア万国博覧会で、イギリスがアメリカに文化的に優位に立つため、日本の陶磁器コレクションの一括購入を決めたこと、そのためには輸出工芸品だけでなく、日本本来の陶磁器の歴史的コレクションを入手したいと望んだこと、その結果、輸出品には見られない茶陶も含むコレクションがロンドンに渡ったこと、などが明らかになった。 イギリスでは予定どおり、ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵作品の実見調査と、当時のサウス・ケンジントン博物館による日本陶磁器の一括購入に関する資料調査を実施することができた。その結果、文献調査の結果が裏付けられただけでなく、茶陶はまだ一部の人々にしか評価されていなかったこと、そのため茶陶の購入価格は、コレクションに多く含まれていた輸出用陶磁器よりかなり低かったこと等も明らかになった。このように当時のイギリス側の日本工芸観を一定把握することができた。この調査については、研究協力者である同館のアーヴィン氏の全面的な協力を得ることができて、研究がはかどった。 これらの成果を予定どおり『京都府立大学学術報告 人文』に発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究をまとめるため、10月に国際京都学セミナー「(仮題)伝統+テクノロジー 明治150年 京都工芸のモノがたり」を、京都府立京都学・歴彩館で一般に公開して実施する予定である。また年度末には紙媒体の成果報告書を作成し、主な研究機関・資料館・京都府内の公共図書館等に配布する予定である。 平成30年度についても研究代表者がロンドンを訪れ、大英図書館で19世紀末~20世紀初期に出版された日本旅行記を渉猟して、並河家を訪問したイギリス人旅行者の記述との照合を継続する。ヴィクトリア&アルバート博物館では、1910年の日英博覧会時を中心に、明治時代後期における日本の工芸について調査する予定であり、この2つのプロジェクトにおいても、アーヴィン氏の協力を得る予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、平成29年度は物品費を47万円計上していたが、大英図書館で渉猟した資料の一部はリプリント版がペーパーバックで安価に入手できたため、書籍の購入費用が当初の見積もりより小さくなった。平成30年度は研究の対象を、1910年前後を中心とした20世紀初期に広げるため、新たな書籍・資料を収集する必要があるため、物品費を当初計上していた28万円より充実させたい。 イギリスでの調査については、旅費を42万円計上していたが、平成29年度は8月の休暇中に実施したため、47万円以上必要であった。平成30年度についても当初の計画では42万円を計上していたが、夏期休暇中に実施を予定しているため、また平成29年度より滞在日数を増やす予定のため、旅費の増加が見込まれる。 年度末に作成する予定の成果報告書については、工芸の作品を掲載するため、カラー印刷を予定している。そのため冊子作成の予算も確保したい。
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