2017 Fiscal Year Research-status Report
日本の七宝業の技法と製作環境に関する研究-明治期の並河靖之の七宝業を中心に
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16K02285
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
武藤 夕佳里 京都造形芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (80388206)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 並河靖之 / 並河七宝 / 製作環境 / 七宝技法 / 七宝釉薬 / 明治工芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「日本の七宝業の技法と製作環境を明らかとする」ことを目的に明治期の京都で展開された帝室技芸員・並河靖之(弘化3年・1863~昭和2年・1927)の七宝業に着目した研究活動である。史資料を多角的な視点で収集し、それらの検証と釉薬資料の科学分析を通じて、各専門家らと調査や研究会を重ね研究をすすめている。 前年に引き続き「並河家文書」については、既に翻刻したものは、それぞれの解析をすすめた。史資料を横断的、複合的にデータの整理を行い、研究会にて検証と考察を行い、「並河家文書」に内在する事実を、多角的な視点で読み取り、明らかとすることに取り組んだ。「並河家文書」の多種の史資料にみる人物名の抽出を行い、横断的に整理し、それぞれの詳しい情報の収集や整理についても継続している。家具道具室内史学会、日本産業技術史学会やInternational symposium(Ⅲ) The Japanese Garden Intensive Seminar Plus in Kyoto 2017 The Cosmopolitan Japanese Garden and Ideasほかにて、これまで成果と取り組みの一端を報告した。 明治時代の七宝の製作技法を解き明かすことを目的に行っている七宝釉薬の科学分析調査については、下画に使用された着彩顔料を対象とした調査を継続し、本年度は新たに明治期の釉薬の調合に関する史資料の解析に着手した。本格的な検証はこれからだが、明治期の七宝釉薬についての科学分析データと釉薬の調合に関するより具体的な史資料との検証により、当時の製作技法をより深くみる可能性が広がった。 史資料研究をさらに効果的にし、学術研究を深めるため文化財保存修復学会、日本産業技術史学会、近代庭園研究会、国際近代陶磁研究会、家具道具室内史学会、国際日本文化研究センターほかの研究会などに参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
明治期の七宝業については、未だに解明の進んでいない分野であるため、より多くの史資料をもとに検証をすすめていく必要がある。そのため、史資料の検証を行うために、翻刻や翻訳を重ね、科学分析についてもデータの収取と解析を重ねた上で次の展開を行うことが望ましく、全体のバランスをみながら研究活動を行っている。 「並河家文書」の翻刻を継続し、「明治三十四年三月 記事 七寶部」、「明治三拾九年五月より 商用発輸簿 並河店」、「明治四三年戌一月」などを行いそれぞれの解析とデータの整理を行っている。ほかの未翻刻の史資料についても、今後の研究の展開を考慮しつつ翻刻の優先順位を検討し着手している。 明治時代の七宝の製作技法を解き明かすことを目的に行っている七宝釉薬の科学分析調査については、本年度は新たに明治期の釉薬の調合に関する史資料の解析に着手した。尾張七宝の塚本貝助(文政11年・1828‐明治30年・1897)に関わる「塚本家文書」にみる『明治二十三年 元調法簿 寅四月廿五』(1890)の翻刻および、後に日本の化学教育を担う工学博士・高松豊吉(嘉永5年・1852‐昭和12年・1937)が東京大学の卒業論文としてまとめた“ON JAPANESE PIGMENTS”(1878)の翻訳などを行い、研究会にて検証を行った。 また、同時代の七宝釉薬についてのより多くの科学分析データを収集するため、勲章や正倉院模造宝物など、七宝釉薬を用いた資料についても調査の対象とした。とくに、奈良女子大学が所蔵する正倉院模造宝物黄金瑠璃鈿十二稜鏡は、正倉院宝物の修復にも関わった吉田包春(明治11年・1878-昭和26年・1951)の製作であるが、七宝部分の加飾が実際にはどのように行われたのかなど不明な点も多い。同資料について、奈良女子大学とともに調査・研究を行い研究会にて製作技法などの検証と考察を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、史資料の翻刻とデータベース化を順次行い、内容の解析を継続し研究会にて検証と考察を重ねる。七宝の製作技法を含む製作環境をみるうえで貴重であるため、並河家文書を中心とした史資料にみる人名の抽出と経歴に関する調査を継続し、産業や文化を担った人物を抽出し、交流の広がりと役割を検証する。近代七宝の発祥地である尾張七宝やそのほかの七宝に関する史資料についても収集を行い、明治期の七宝製作の手掛かりとなるものについては翻刻する。 とくに釉薬資料に関わる史資料については、これまでの調査により京都と尾張における釉薬調合をより具体的にみるものを得られていることから、現存する当時の七宝作品や七宝釉薬の科学分析を行い、これまでの分析データとも合わせのさらなる検証を行う。下画に使用された着際顔料の調査も継続し、測定データを収集し、下画に記載された文字情報についても整理する。明治期の七宝業において、釉薬の色彩をどのように獲得していたのかを知る手掛かりとしていきたい。 これまでの研究成果を取りまとめるための、分野を横断する研究会(公開)を行う。分野を越えて行っている本研究活動は分野の専門性に根差したものであるが、それぞれが柔軟な発想を持って取り組むことにより総合的な研究が可能とし、研究への新たな視点を得るものとしたい。次年度は、産業技術史学会、文化財保存修復学会、文化財化学会にて、研究活動の一端を発表する予定である。
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Causes of Carryover |
史資料の翻刻や翻訳などを順次すすめているが、年度をこえて継続しており、また、予定していた科学分析調査の一部が、調査対象資料の所蔵先の都合などにより、次年度に繰り越しているなど、差額が生じた。しかし、先に研究の進捗、今後の研究の推進方策などで、報告してきた通り、史資料調査と科学分析調査の相乗的な研究を行うため、計画にそって研究を遂行していく。
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