2017 Fiscal Year Research-status Report
日本近代の渡仏美術家とアイリーン・グレイの協働がヨーロッパ美術に与えた影響
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16K02287
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
川上 比奈子 摂南大学, 理工学部, 教授 (90535121)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アイリーン・グレイ / 菅原精造 / 稲垣吉蔵 / 木内克 / 碓田克己 / ル・コルビュジエ / 高村光雲 / 森川奇秀 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭、アール・デコ期の芸術家として有名なアイリーン・グレイに初めて日本漆芸を教え、作品を共に創った菅原精造とその周辺の渡仏美術家たちがグレイとの協働によってヨーロッパ美術に与えた影響を探るため、これまで収集した資料を解読・分析するとともに関係者にインタビューを行い、論文化するとともに招待講演などで社会に発信した。特には、ロダンの助手としてフランス彫刻を支えた稲垣吉蔵に関する資料を新潟県村上市で収集し、関係者から重要な証言を得ることができた。その結果、稲垣吉蔵もまた東京美術学校出身の美術家として、彫刻家高村光雲の教えを受けていたことが判明し、江戸時代から受け継がれた日本の彫刻、絵画、漆芸の理念と技法が稲垣を通してグレイに伝わった可能性が強いことが分った。 また、日本美術家の中でも最もグレイと緊密に共同した菅原精造の日本漆芸の背景について、その修行の始まりから、東京美術学校での漆芸習得、フランスにある墓石に刻まれた職業名、遺された作品概観をまとめた論文により、日本デザイン学会年間論文賞を受賞した。 さらには、デザイン史学研究会誌に菅原精造とアイリーン・グレイの共同関係がフランス美術に与えた影響について、日英の二か国語による論文「漆芸家、菅原精造がアイリーン・グレイの家具・インテリア・建築に及ぼした影響」を発表した。平成29年1月には、武庫川女子大学の生活デザイン研究会招待講演会において「アイリーン・グレイの家具・インテリア・建築 -ル・コルビュジエ、そして菅原精造との影響関係を通して-」と題し、菅原とグレイの共同が、フランス建築界・美術界の重鎮であるル・コルビュジエに与えた影響についても発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アイリーン・グレイに初めて日本漆芸を教え、作品を共に創った菅原精造とその周辺の渡仏美術家たちがグレイとの協働によってヨーロッパ美術に与えた影響を探るため、これまで収集した資料を解読・分析した結果、重要な史実 がいくつも判明し、論文や招待講演において社会に発信した。さらに新潟、山形で行った調査結果をもとに新たなデータシートを作成し、その分析をもとに、さらなる調査をはじめている。 また、これまでの論文を英訳、仏訳するとともに、関係機関に協力を依頼しており、計画は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29月年度の調査・分析で得た知見をもとに論文を執筆する。また、論文を英語またはフランス語に翻訳・校閲依頼して関係機関に送付し、さらなる調査環境を整える。 菅原が教えを受けた東京美術学校の漆芸科教授、高村光雲、川之辺一朝の作品を東京芸術大学付属美術館などにおいて調査し、日本の美術家を通してグレイに伝えられた内容を意匠的に比較分析する。また、当時の教育カリキュラムを具体的に調査し、グレイの技法の源を探る。さらに稲垣吉蔵および菅原の元師匠である森川の出身地・新潟県、菅原の出身地・山形県、碓田の出身地・愛媛県、木内の遺族がいる東京に赴き、情報を収集する予定である。また、ル・コルビュジエとグレイの関係についてさらに調査し、また、菅原と同時期にフランスに滞在し、ル・コルビュジエの建築に協力した前川国男についても調査を開始する。その他、進捗状況により、海外での調査を推進する予定である。
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Causes of Carryover |
国内の調査において、予想以上に史料や証言による新しいデータを得ることができ、その整理・分析と論文化、招待講演による発信に使用することとなった。また、年度をまたいだ調査・研究を続けている項目があるため、次年度に使用する予定である。
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