2016 Fiscal Year Research-status Report
近世宮廷絵師の画系、出自的背景と宮廷社会に関する基礎研究
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16K02289
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Research Institution | Hiroshima Jogakuin University |
Principal Investigator |
福田 道宏 広島女学院大学, 国際教養学部, 准教授 (10469207)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美術史 / 日本史 / 絵師 / 宮廷 / 地下官人 / 墓碑 / 古記録 / 下橋敬長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は宮廷御用を勤める絵師たちの総体を「画壇」として捉え、それを構成する宮廷絵師の営みを通時的、かつ巨視的に俯瞰するこれまでの研究を発展的に継承し、彼ら宮廷絵師たちの画系、出自的背景とともに、宮廷社会とのかかわり方を解明することを目指すものである。古記録・古文書など文献史料に依拠した研究を行うとともに、現在、失われつつあり、危機的状況にある寺院等に所在の絵師の墓所などを実地調査するという研究方法を採ることにしている。 本研究の独自性及び特徴は、研究方法として文字資料を中心に活用することである。文献資料に加えて、墓碑などの金石文をも対象とすることにした。もちろん、これまでの美術史研究においても、古記録・墓碑など文字資料は用いられ、また、画系と出自的背景に着目する研究も皆無ではないが、正面から取り上げる研究はいまだ少ない。どちらかと言えば、先行研究の多くは作品を主として、それを補完する文字資料を従としてきたが、本研究では文字資料のうち、古記録・古文書と、墓碑など金石文とが互いに補完しあって研究の主となり、作品は従となる。 そうした観点から、4か年度の研究期間の間に、「十八、十九世紀、宮廷御用絵師の通時的画壇史としての研究」(平成24~26年度科研費若手B、以下「前課題」)をはじめ、これまでに行ってきた調査研究の成果を踏まえ、さらに文字資料の研究を推し進めるため、すでに複写などで入手済みの古記録とそのデジタルデータ、一部研究者自身が翻刻したものなどを突き合わせて整理するとともに、墓碑など金石文に関する予備調査を行った。また、研究体制を整えるべく機器の導入も行った。さらに、本研究開始以前から翻刻し、準備を進めていた昭憲皇太后入内の際の絵師の屏風制作などの御用について、近世宮廷画壇の最後の御用として、『明治天皇紀』・『昭憲皇太后実録』などとの対比も行いながら、検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に当たる平成28年度は、複写済みの古記録とそのデジタルデータ、研究者自身が翻刻したものなどを突き合わせて整理するなど、これまでの研究成果を総括するとともに、墓碑など金石文に関する予備調査、新たな研究体制の構築と準備を中心に行った。 まずは、前課題はじめこれまでの複写物のファイル整理とスキャン済みのデジタルデータ、自ら活字起こしした翻刻のデータファイルの突き合わせを行い、ファイリングやデータ整理など未了のものの継続から開始した。一部翻刻したもの、翻刻はしていないものの読んだものの中には、冊子の「のど」にかかって複写では読むことのできないものもあり、付箋を貼るなどして、再度閲覧の際に現物確認を行う必要があるところに印をしているが、そうしたものを効率よくまとめて閲覧するにも準備作業が必要である。 また、本研究の眼目のひとつである墓碑など金石文調査について、近代以降の掃苔録や、春日大社石灯籠銘文をまとめた高田十郎『春日の石灯籠』などにより、調査先特定のための予備調査を行い、すでに墓碑の所在が明らかな京都の寺院での調査も行った。その際、肉眼で読み取れない文字も多く、これまでに写真でも判読できなかったため、拓本を取るなどしたが、墓石の石材自体が劣化で脆くなっているなど、拓本を取ることが不可能なものも多いことが判明した。そこで、次年度以降の調査に向け、3Dスキャナを導入することにした。スキャナは納品後、様々な対象で試してみたが、操作に慣れる必要があり、今後繰り返し使うことで習熟したい。 なお、前課題遂行時以来、研究用に用いてきたコンピュータが故障し、代替機を導入し、故障機からデータを抜き出すなどの事態も発生したが、その割には順調に進んでおり、準備も整いつつある。墓碑の実地調査などに行かれた回数自体は少ないものの、研究室内でできることから優先したため概ね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の準備が順調に進捗しており、その準備状況をもとにすぐにも調査研究にとりかかれる状態であり、実際に年度がかわってすでに墓碑及び春日大社の石灯籠の実地調査を2度行っている。調査に際しては昨年度購入した3Dスキャナを本格的に試験導入してみたが、拓本などの記録方法と同様、スキャナでの記録にも長短、向き不向きがあることがわかってきた。また、直射日光が強く当たっているとスキャナの読み取りが機能しづらい場合もあり、今後の調査の際には調査助手を雇用して同行し、調査の補助に当たらせるなどの工夫ができると確度も上がるものと考える。なお、傘や暗幕などを持参して光線の具合を調整する者と、コンピュータを操作する者、スキャナを動かして碑面の読み取りをする者という3名、研究者本人以外に2名の調査助手がいると調査がより正確にはかどるものと思われる。もちろん、古記録の調査検討も並行して行い、閲覧と複写も行うことにしたい。
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Causes of Carryover |
平成28年度は勤務先において急な同僚の退職もあって校務分掌が増加するなど不測の事態もあり、また、授業コマ数が多く、平日の調査旅行ができなかったため、旅費および資料複写の費用が計画していたほどには使用できなかった。一方で、コンピュータの故障による代替機導入という不測事態も生じたが、出来るだけ有効な予算執行のため、旧モデルのコンピュータを購入するなど節約の努力も行った。また、調査旅行を行うことができない代わりに、勤務先の研究室や自宅でもできる作業を優先し、また、効率化のため、一部、スキャンやデータ整理などに学生アルバイトの雇用を行い、既述のとおり、次年度に向けての充分な準備と、予備的な調査研究も行うことができたものと考える。結果、予算執行額は予定よりが少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の執行額は予定に達しなかったものの、次年度以降に向けての研究体制の準備・構築を充分に行うことができたため、当初計画に沿って初年度に実施できなかった調査を順次後ろ倒しで行うとともに、今後は年間計画および期間中、のこり3過年度分の計画を立てて、計画的に調査研究を遂行したい。また、現時点ではインターネット・紙媒体の出版物等での一般に向けての成果公表が手薄なため、最終年度以前に、公開できるものを公開するなどの方法も考えたい。
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Research Products
(3 results)