2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02290
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
渡邊 雄二 九州産業大学, 芸術学部, 教授 (20590441)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 関野貞 / 朝鮮時代絵画 / 植民地期朝鮮 / 近代美術市場 / 近代博物館 / 朝鮮総督府 / 李王家 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究テーマに沿って、以下の調査研究・発表・論文執筆を行った。まず、関野貞調査カードの所蔵者の調査を韓国ソウルにおいて、平成28年6月30日~7月4日、同年10月17日~10月21日行った。これは東京文化財研究所に所蔵される関野貞の調査野帳ほか写真カードに記録される朝鮮時代絵画の所蔵者で京城(ソウル)に所在した代表的な施設について調査した。同時に1920~30年代の京城(ソウル地区)地図や写真などを調査・した(ソウル市博物館など)。 論文翻訳について国立中央博物館学芸員の洪彰華(ホン・チャンワ)氏に依頼し、平成29年1月5日~10日洪氏を日本に招へいし、翻訳の打ち合わせと東京の資料についての調査を依頼した。日本での調査は東京国立博物館、東京藝術大学である。文献収集について韓国の研究論文は洪氏を通じてPDFデータなどで入手した。 韓昌哲財団研究論文集に論文「近代日本における朝鮮時代絵画研究-関野貞の絵画調査カードから-」(平成29年3月発行)を掲載した。また、平成29年2月24日、韓国国立中央博物館会議室において、「関野貞調査カードと近代日本での朝鮮時代絵画研究」を発表した。 本年度は科研費助成による初年度の調査研究であった。第二次大戦以前において、朝鮮時代絵画について専門的に調査、研究した日本人研究者はほとんどおらず、そのなかで関野貞は日本国内所在の作品だけでなく、植民地期朝鮮の京城を中心とした所蔵者、施設の絵画資料について、数多く調査しており、その成果を調査カードとして東京文化財研究所が保管している。初年度の調査としては今日不明になっている第二次大戦以前の朝鮮時代絵画資料の所蔵者、施設について明らかにすることをめざした。李王家博物館、朝鮮総督府博物館など今日は撤去、廃棄された施設について、所在地やその施設内容などを現地で跡地や文献で確かめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東京文化財研究所所蔵の写真カード・関野貞調査野帳から、その記載によって1930年に開催された京城(ソウル)での古書画珍蔵品展、1931年、東京での朝鮮名画展覧会などに出品された朝鮮時代絵画を調査したことがわかった。また、関野はその後も朝鮮時代絵画の調査を京城で行い、博物館ばかりでなく、個人の所蔵家についても積極的に調査を行った。近代韓国における博物館施設については、日本での研究が少なく、施設の所在、成立、所蔵品収集の経緯、日本とのかかわりなど、基本的な概要について文献と実際の所在など韓国において確認することができた。また、当時の美術市場については近年韓国の美術史学研究者による研究が盛んになっており、国立中央博物館の「都市と美術、美術と都市」展(2016年)などで、研究の成果が発表されていた。 韓国の研究事情について、徳成女子大学校朴銀順教授をはじめ、韓国中央博物館学芸員洪彰華氏、李源珍氏、ソウル大学校に留学中の田代祐一朗氏などに教示いただき、調査研究の指針を得た。わずかな研究材料ではあったが、こうした方々によって、研究論文を韓昌哲文化財団の研究紀要に掲載し、国立中央博物館で研究発表を行うことができた。 その概要は東京文化財研究所の朝鮮絵画関係の調査カードのほとんどは関野によって作成されており、残念ながら、そうした調査研究は近代日本において国内の美術史研究者は携わらなかったことが判明した。わずかに柳宗悦氏が韓国陶磁に美を見出し、近代韓国において収集、展示活動を行う中で朝鮮時代絵画についても触れることがあったが、美術史の視点というよりも民芸の価値観から述べるにとどまったと思われる。こうした近代における朝鮮時代絵画の収集、展示について、具体的な活動、それにかかわった人物、などを関野貞関係の調査カードに関連する事象から把握することができたといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的文献や現在、研究が公表されている韓国の研究状況を具体的に解読するために、これまで韓国の研究者に翻訳を依頼していたが、翻訳ソフトやネット翻訳を併用して、研究者自身で解読をするよう努めている。本研究は、日本の近代美術史において、全く欠落していた視点である、近代韓国における伝統的絵画(書画)の収集や鑑賞(展示)について、具体的な作品、その流通、展示会への出品などを跡付けて、その意義を確認することを目的とする。そのために国内及び韓国での資料、文献収集に努めると共に、韓国の近代美術市場史や展覧会史、博物館史などの研究者との交流、意見交換を通じて、日韓における意識の差異を認識するため、共同研究や発表の機会をもうけたい。 国立中央博物館では近年、朝鮮総督府博物館についてのシンポジウムを開催するなど近代の博物館についての研究を進めるなど、これまで看過しがちであった植民地期の文化活動を振り返っている。こうした動向をうけて、日本が関わる収集、展示、研究活動について調査研究を進めていきたい。 そのために、まず関野貞の調査した作品について当時の所蔵者、その後の所蔵の経緯、現在の所在などを調べるとともに、その動向にかかわった人物、組織について分析したい。これまで近代、伝統的な韓国美術資料が李王家博物館、朝鮮総督府博物館あるいは日本人個人によって、陵墓盗掘ほか、強制的に日本の権力を通じて収集されたとみなされてきた。また、関野貞はそうした日本の権力による近代韓国の文化的支配の主導者と考えられがちであった。その真の姿も示し、日本の植民地支配における伝統的美術の意義を見出したい。近代陶磁流通史ではすでに作品の収集、研究についての検討が進んでいるが、1930年代にもっともさかんになった伝統的書画の流通についても資料を根拠に日本からの視点を論文や資料公開、発表などで提示できることを望む。
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Causes of Carryover |
旅費について、なるべく安い航空運賃で渡航したことによると思われる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
韓国の旧所蔵者であった朴在杓氏の所蔵状況を知るために、韓国ソウルへの調査の際に在住であった晋州(チンジュ)への往復旅費に充てたい。
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Research Products
(3 results)