2017 Fiscal Year Research-status Report
ピッチ理論の微分音領域への拡張とそれに基づく分析的な作曲方法論研究
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16K02303
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
折笠 敏之 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (80751479)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 作曲方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
引き続き、微分音を含む音組織を素材とした方法論的な創作及び分析のための、音高に関するシステマティックな数値化、クラス化等について可能性を探った。前年度は、アリストクセノスが「全音」を12の等しい部分に分け(「12分音」)、それを計測単位として用いたこと等を参照し、例として挙げたような72のピッチクラス(音名成分あるいはクロマ)などについて考察を行ったが、当該年度はそれを前提として、それ以外の可能性についても検討を行った。 例えば、等分律内の全ての音を含む音組織(例:通常の平均律を構成する12音)のような一様な対象ではなく、不等分律的な音組織を扱う上では、一旦、何らかの等分律的で一様なピッチ空間の中にその対象となる音組織を落とし込んだ後に、その不等分な音程関係にある音組織内でクラス化を行う等(例:音階における音度等)、多層化して対象を捉えること等についても可能性を検討した。次年度以降も、そういった具体的な扱いについての考察は継続することになる。 実際の創作に際して、例えばコンピュータでの処理を前提とする場合など、関連の開発環境で標準的なMIDIセントを単位とした等分律的音高空間(最大1200の音名成分)において、近似的に個々のピッチを表現することが創作の立場からの現実的手段とになる。歴史的な音律や倍音列などの参照に基づく音組織等に関しても、この1200平均律上のクラスへと近似的に当てはめて扱う方法をとったが、その他に具体的な音の配置などについても若干の考察を行った。 2月には前年度同様、研究の段階に応じて制作した作品として、特定の数系列による演算から導出された微分音を含む音高システムからのヴァリアントに基づき、方法論的に作曲されたアンサンブル作品(編成:Fl、Cl、Vln、Vla、Vc、Pf)が、小鍛冶邦隆指揮、Ensemble REAMの演奏により初演された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、音高組織に関して「集合論」的な立場での「還元」を前提とするわけではなく、微分音を組織的に扱う方法について一定の類型化を行い、その分析的視点から改めて現代の創作における複雑化した音響構造を実質として捉えつつの、(楽譜として記譜された演奏可能な作品の)方法論的創作を目的としている。そのため、ピッチクラス的な(音名成分、クロマ的な観点からの)考察は必須であるが、それのみならず、実際の音響として、音色的なピッチの扱い(音響学周辺領域でのトーンハイトや複合音のピッチ)等も参照しつつ、方法論的な可能性を検討している。それには、様々な尺度の音響解析に関するコンピュータ・プログラム等の(ある程度の)活用も期待される。 例えば対象とする具体的な音響に関し他の音響との類似性を考察する場合等について、「機械学習」的なパターン認識の手法を応用した解析プログラムについても検討を行い、作成に当たっている。また「n-平均律」の網の目により音名成分を分析するクロマ、あるいはスペクトル重心等の通常の解析に加えて、ピッチ知覚等の要素、例えばメル尺度(あるいは補足的にバーク尺度)等を参照することも視野に入れている。 「コンピュータ支援作曲」のための幾つかの開発環境には、ピッチクラスを理論的に扱うことを前提としたツールがある程度整っているが、それらと上述の諸解析データとを合わせて総合的に検討すべき諸事項については、やや方法的な可能性の考察にとどまっているような状況で、具体的な制作や運用の段階に至っていない面も多い。そのため進捗状況については「やや遅れている」ものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までと同様、先行研究等の資料に当たり、関連の開発環境において方法論的に有効なコンピュータ・プログラム作成、また研究の進度に応じた実作に当たる。その際、必要に応じて海外での調査・研究も行う。 前項までで述べたように、音響学や聴覚心理学、心理物理学等、周辺領域における成果についてもある程度採用を検討する必要があるが、それについては作曲関連の開発環境においてsound descriptor(フランス国立音響音楽研究所IRCAM関連の研究者が開発しているものが既に充実している)等、或る程度の水準でツールが整備されている状況でもある。作曲専門領域の立場から、音楽理論的な扱いに加えて、音響学的、聴覚理論的な角度からこういった分析・検討を行うことは、特に複雑化した現代音楽に於ける音響を原理的に制御する上で一定の意義のあることと考える。 作曲作品の創作及び発表に加えて、今後、本研究に基づく方法論化のプロセスの一端(より範囲を限定したものになる可能性が大きい)を、関連の作品とともに学術的な水準の論文としてまとめることを検討しつつ、本研究の期間終了後も考察すべき課題についても整理・検討する。
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Causes of Carryover |
調査研究のための旅費が当初の見込みよりもやや多く発生する見通しとなり、次年度の謝金見込み額など全体の予算を考量した上で必要に応じて自費対応としたため(繰越分はそれに当てる)。
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