2017 Fiscal Year Research-status Report
Cinema and Sound in East Asian Mediasphere: in the Case of Japan and Joseon in the1920s and 1930s
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16K02308
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
朱 宇正 名古屋大学, 人文学研究科, 助教 (40770524)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 発声映画 / サウンド・メディア / 城戸四郎 / 帰山教正 / 映画上映 / ハリウッド / 1920年代 / 映画批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は日本において1920年代に現れた発声映画についての言説を、映画産業関係者と批評家の反応を中心にして分析した。主には産業からは松竹のプロヂューサー城戸四郎、また批評家としては帰山教正を選んで、ケーススタディの形で研究を進め、それぞれEuropean Association of Japanese StudiesとSociety of Cinema and Media Studies学会で結果発表を行った。 城戸四郎の場合、1928年から1929年にかけて行われた彼のヨーロッパ諸国とアメリカへの訪問を取り上げ、当時発声映画技術について彼の西洋から受けた影響を追跡し、それを帰国の後松竹で実際現れた発声映画製作についての動きと比較して分析した。彼の伝記と当時の記事などを通して、ハリウッドで当時使用されていた複数の形式の装置を彼が確認していたことが分かった。しかし、そういう経験が直接トーキーの製作まで繋がっていたのではないであるが、その理由としては弁士や製作環境の問題以外に、映画館という上映システムの問題が大きかったことが確認できた。 他方、帰山の場合も同じ時期に特に『キネマ旬報』を通じてアメリカの発声映画技術についての批評を活発に発表していたことが分かった。彼はすでに1910年代から「純映画劇運動」のモットーでアメリカの近代的な映画技術の受容を主張してきた人物であるが、発声映画の場合もその「技術的」な側面に注目しながらも、アメリカの新技術がそのまま日本に適用されるには無理があるという、より慎重な立場も持っていたことが確認できた。その根拠としては、城戸と同じく、上映館のサウンド・システムの不備が一番重要に挙げられ、当時上映の問題がトーキーへの転換期に核心的なイシューであったことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度の目標として計画していたことの中、発声映画についての日本側の言説(特に1920年代末の時期に現れたもの)については批評と産業の反応を中心として具体的な結果を出すことができたと評価できる。とりわけ、「上映」の観点からのサウンドについての言説が共通的に現れていたことは重要な発見として考えられる。また、二つの国際学会に参加、発表しながら、同一分野の外国研究者たちと意見交換ができたのは今後の研究の進めにも大きく役に立つと思われる。 植民地朝鮮の場合は28年度のような進展はなかったのであるが、計画していた一次資料の中『中央』は調査・収集を行い、二次資料も最近出版されたイ・ファジンの『音の政治』、ベク・ムンイム等(編)の『朝鮮映画って何』、またキム・ドンフンの『Eclipsed Cinema』など重要な著作物の調査を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは今年度に発表した帰山についての研究を深化して「日本の批評家たちによって語られた初期発声映画についての言説」を主題とした論文を発表することを目指す。そのため帰山以外の批評家の書いた文書を『キネマ旬報』、『映画批評』など1920年代末に発刊された映画雑誌を中心に収集・整理・分析する。また城戸と他にハリウッドを参観した関係者たちの経験を使って産業側からの言説も補充する。より広いコンテキストとしてはアメリカと他国との文化交流・交渉の歴史や理論的な背景としてモダニティー論を加える。 二番目は、今までの研究結果を内容とする本の企画案を完成・提出する。現在の案は、上記の批評家研究に加え「映画産業の変化と音のジャンル論」、「聴覚の欲望の主体としての観客」、「音声の政治学」という4章を考えている。この中、観客については、女優の声が与える情動的・政治的影響の意味をテーマとしてもう一つの論文を完成するのを目指す。また、朝鮮の場合にも今まで収集した一次・二次資料を分析して、日本との関係性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
初期発声映画のソフト資料と研究消耗品の購入が遅れた部分があった。次年度に追加購入を行う予定である。
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