2016 Fiscal Year Research-status Report
キャラクター表象の公共彫刻化による地域振興と出版文化への影響に関する研究
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16K02317
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
楠見 清 首都大学東京, システムデザイン学部, 准教授 (30514004)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 公共芸術 / 大衆文化 / 地域振興 / マンガ / アニメ / キャラクター / モニュメント / 彫刻 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本各地に設置が進むマンガ、アニメの登場人物の銅像について調査を行った。とくにその出自が出版やテレビ放送などマスメディアの娯楽作品のキャラクターであることを踏まえ、知名度があり親しみやすい大衆文化表象が、従来の公共彫刻に代わる新しい時代や地域のシンボルとしてどのように受容され機能しているかを、文化史・美術史、財政、メディア効果、政策波及効果などの側面から検証を行うためのデータ収集を行った。実地調査にあたっては、すでに平成26-27年度に行っていたものも含め、全国14都道県の26か所の地域に設置された計363体を対象にフィールドワークを行い、目視と聞き取りなどによる取材と記録写真撮影を完了した。 調査はおもに次のような観点から多面的に行われた。(1)設置の経緯(設置者の意図)、(2)設置の状況(街並との関係、景観デザイン)、(3)造形作品としての観察(素材、形状、二次元を三次元化する際の表現手法など)、(4)原作との照合(視覚イメージやナラティヴな背景の引用や解釈)。このことで、地域活性や観光開発など社会的な成果(1、2)、従来の彫刻史や公共彫刻から継承される様式やそれに代わる新たな創意工夫(2、3)、出版や映像メディアとの関係性(3、4)などの検証が可能となる。 以上の調査の結果をもとに、雑誌媒体への寄稿と書籍の企画・執筆・編集を行い、平成28年度末に共著1冊(『もにゅキャラ巡礼──銅像になったマンガ・アニメキャラたち』、扶桑社)を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全国26か所のフィールドワークを完了し、その調査の成果を積極的に出版メディアを通じ公表することができた。 とくに大衆文化現象としての側面から、調査の成果の一部は雑誌『週刊SPA!』の連載記事として公表し、それらをもとに書籍『もにゅキャラ巡礼──銅像になったマンガ・アニメキャラたち』(楠見清、南信長著、扶桑社、平成29年3月)を刊行したことで、本研究の社会的な認知を促すことができたことの意義は大きい。 この書籍においては一般読者向けに調査対象を「モニュメントになったキャラクター」を縮めた「もにゅキャラ」という造語で表したが、その意図は、地域振興のためのキャラクター文化として社会現象になった「ゆるキャラ」と対置可能な命名をすることで、その共通性や同時代性を明確にし、行政や都市開発などの慣例によって硬直化した公共芸術の枠を打ち破る新しいシンボル創生の動向として社会的な認知を促すことにある。今後、関係者・識者たちとの意見交換を進めていく上での活用も期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究はおもに以下の方法と方向性で進められる。 (1)調査資料のデータベース化とその活用方法の提案、(2)関係者・識者との意見交換と学術的な分析および考察、(3)地域やより広範囲な一般を対象としたヒアリングやアンケートによるシンボルの受容や出版への影響に関する意識調査、(4)周辺領域を接続し包括する視点での位置付けと新たな論点の提起。 (1)(2)(3)はシンポジウム、展示など公開や交流活動を通じて平成29-30年度に平行して進められ、最終的に(4)に集約されていくものと考えている。また、本研究のテーマには現在進行形の事象も含まれるため、次年度は状況に応じて追加の取材調査も継続し、つねに現実に即した諸問題の検討を加えながら、最終年度に向けた研究の方向性を策定していく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由には、まず、データベース化が次年度の作業になったため、作業に関する人件費の支払いが生じなかったことが挙げられる。また、当初予定した取材旅行の一部が出版経費でまかなわれたことと取材旅行がまだ完全には終了していないことから、旅費が予算に達しなかったことが挙げられる。代わりに当初予定にはなかったが、調査や整理に必要な物品や記録出力のための消耗品の必要が生じたためそれらの購入に充てた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残りの金額と次年度以降に請求する研究費を合わせた使用計画としては、データベースの作成にあたっての作業人件費、追加の取材旅行のための旅費、シンポジウムや展示会の開催にあたっての会場使用料や謝金等の支払い、調査資料の保管や整理にあたって必要な物品や消耗品の購入などを計画している。
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