2016 Fiscal Year Research-status Report
日本人によるショパン作品の演奏解釈の変遷と研究との関わり
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16K02323
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
岡部 玲子 常磐大学, 人間科学部, 教授 (00513152)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 一郎 国立音楽大学, 音楽学部, 准教授 (60224490)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ショパン / 楽譜 / ピアノ演奏 / 日本人ピアニスト / ショパン国際ピアノコンクール / 演奏解釈 / エディション研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本人によるショパン(1810-1849年)の作品の演奏解釈の変遷と研究との関わりについて考察することである。具体的には、時代によって内容に変化が生じる楽譜という研究成果が、どのように演奏に反映されているのかを検証する。そのために、初年度となる平成28年度は、楽譜と音源を可能な限り収集することに重点を置いた。最初に考察する作品は、日本人ピアニストによる録音数の最も多い《ワルツ》op.64 No.2とした。 資料収集については、国内では《ワルツ》op.64 No.2の日本人ピアニストの録音54件、楽譜は国内および国外で出版された計34の版を入手した。国外ではポーランドのNIFC(国立フリデリク・ショパン研究所、ワルシャワ)にて現地調査および資料収集の交渉を行った。NIFCでは当該作品に関する3つの手稿譜をはじめ、ショパンに直接関わる資料を写真撮影によって入手した。また、撮影は許可されなかったが、ショパンの姉イェンジェイエヴィチョーヴァの楽譜の原本の調査を行った。これらの資料を使用し、初年度は楽譜に焦点を当てた論文を、研究代表者を筆頭執筆者として、研究分担者、研究協力者2名の計4名の連名にて1件発表した。 国際ショパンピアノコンクールについては、第11回を除く第5回から第15回までの日本人参加者のすべての音源資料を入手した。さらに参加者が使用した楽譜の種類が記されている資料についても確認することができた。プライベートな内容が含まれているためすべての資料の精査は許可されなかったが、その代わりにすべての資料から楽譜に関する記述のみリストアップした資料作成、後日送付の約束を取り付けことができた。 また、ラジェヨヴィツェにあるトゥフルツェ宮殿で行われた国際ショパン学会に参加し、ショパンの楽譜や音源、演奏に関する最新情報の収集に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実施計画では、楽譜資料の収集および考察、音源資料の収集および考察、ショパン国際学会におけるショパンの楽譜や音源に関する最新情報の収集考察の3点を目標としていた。また、具体的にはショパン作品における前打音について、ショパンは自身の弟子の楽譜に拍と同時に打鍵することを指示している箇所を挙げ、研究成果がいつの時代から楽譜に示されるようになったのかを考察するとしていた。 このうち、楽譜資料の収集および考察は、観点を日本人ピアニストによる録音数の最も多い作品である《ワルツ》op.64 No.2に変更し、考察を行った。また、国際ショパン学会に参加し、ショパンの楽譜や音源、演奏に関する最新情報の収集に努めると共に、NIFC(国立フリデリク・ショパン研究所、ワルシャワ)にて現地調査および資料収集の交渉を行ったことにより、想定以上の成果を得ることができた。 その一方で、音源については、資料の収集は順調に進んだが考察にまでは至っていない状況である。その理由として、資料収集が順調に進んだことで収集した資料の整理に時間が必要であったことが挙げられる。また、平成28年度の研究実施計画の例として挙げたショパン作品における前打音を拍と同時に打鍵することに関しては、観点を変更したことで考察対象作品を変更したが、考察すべき内容であることは研究代表者をはじめ研究分担者、研究協力者を含む4名の共通認識である。そのため、平成29年度、あるいは平成30年度に振り替えて分析を行い、論文として発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、ショパン作曲《ワルツ》op.64 No.2についてエディション研究を主とした論文を4名の連名にて1件発表した。平成29年度は、前述の論文において、楽譜における異同の内容および分類(1. ショパンによる弟子の楽譜への書き込みが伝承により一般化する例、2. 類似箇所の音などが転用され定着する例、3. 2つの資料からの選択あるいはそれらの混合/改変が行われる例、4. 表現の変化が見られる例、5. 長い間共通認識となっていたタイの例、6. 校訂者が改善を試みた例)、そして海外で出版された楽譜が国内で出版された楽譜にどのような影響を与えたのかを明らかにした上で、美的考察を行った。平成29年度は、それらのエディション研究で明らかになったことが、演奏にはどのような関連が見られるのかを考察する。具体的には、音響ソフトを用いて演奏におけるテンポの速さや揺れ、強弱の違い等を考察する。また、《ワルツ》op.64 No.2以外の作品において、ショパンの作品における特徴的な記譜法(拍と同時に前打音を打鍵することなど)がある作品を取り上げ、演奏方法における傾向や時代的特徴を考察する。 国際ショパンピアノコンクールについては、音源は入手済みであるが参加者が使用した楽譜のリストはまだ未入手の状況である。引き続きNIFC(国立フリデリク・ショパン研究所、ワルシャワ)コンタクトを取り資料を入手するとともに、実際に使用されている楽譜の変化とその要因を考察する。 平成29年度の国際ショパン学会は9月1日から3日までワルシャワにて行われることが予定されているが、現時点で要旨の応募は行われていない。平成28年度と同様に参加し、ショパンの楽譜や音源、演奏に関する最新情報の収集に努めると共に、1名の発表を目指す。
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Causes of Carryover |
1.一眼レフカメラを購入しなかったこと。 2.28年9月にポーランドのラジェヨヴィツェで開催された「国際ショパン学会」への参加の際、主催者のご厚意でワルシャワ⇔ラジェヨヴィツェの交通費が必要なくなり、現地宿泊費も大幅に安くなったこと。 3.専門知識の提供に関する謝金が必要なくなり、現地通訳も依頼しなかったこと。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
音源資料および楽譜資料の収集をより一層充実して行う為の経費、ヘッドフォンの購入経費、「国際ショパン学会」に分担者・協力者とともに4人で参加し現地での資料調査を行うための経費、「国際ショパン学会」における発表の際の原稿のネイティヴチェックの経費等に充てる。
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