2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02332
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
平出 隆 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (90407825)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 芸術表現 / コンセプチュアル・アート / メール・アート / アーティスト・ブック / 言語/形象 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニューヨーク定住以後の河原温は、徹底して「作家」の実像の排除を行った。これはコンセプチュアル・アートの制作行為の一部でもあった。それはたとえば、自身の展覧会に姿をあらわさない、インタビューに応じず、自己解説をしない、肖像写真を出さない、プロフィールの記述にも「生年」を記さず、その時点までの生きた日数を記す、などである。 しかし、平成26年の作家の逝去によって、このような作家主導の状況は当然ながら一変した。河原温自身の遺志を受けた遺族は、本研究者に対して平成28年5月、「DATE PAINTING」「I GOT UP」「I AM STILL ALIVE」シリーズについての作家の手控え(タイトル・リスト、発信記録など)を提供した。 これにより、新段階を迎えた研究は、平成29年度、複数のシリーズの相互連関の調査に入った。河原温の複数の制作物から、一つの時間軸を取り出す作業である。これは厳密な意味では「伝記的」記述ではなく、あくまでも作品自体とその周辺からのみ導き出される時間軸であり、その一本化である。こうして、概念芸術に付帯する記録性によって、作家自身が語ることを避けていた記録性は、実はあらかじめ作品の中に込められていたものと判明する。 すなわち、ここでの対象は、日本時代に関しては、雑誌などにあらわれた限りの事象に限定し、ニューヨークなど海外時代に関しては、概念芸術の作品から導き出される事象に集中している。 また、河原自身の綿密な設計と指示によるI READの刊行(2018年1月)は、死後の刊行でありながら、特記すべき事件であり、刊行と同時に購入し研究を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
多くの資料を入手したことにより、当初の計画を超えて進展しているといえる。ただし、言語化作業の量、すなわち達成目標も、資料の多さに比例して非常に増大している。 また、DIC川村記念美術館は、平成30年1月に本研究者の制作による一連のメールアートを中心に、それを同時代芸術を関連付ける企画を提案してきた。この展覧会は河原温を含む20人ほどの同時代の芸術家と本研究者による実践的な「言語/形象」探究との間に「対話」関係を示そうとするものである。平成30年10月から平成31年1月まで同美術館で開催される。このため、本研究の成果報告の一機会となるものとして、この提案を受け、1月より展示等の準備に入った。
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Strategy for Future Research Activity |
河原温の複数の制作物から、一つの時間軸を取り出し記述する作業を推進するために、冊子via wwalnutsの制作刊行をそのためのメディアとして活用する。かつまた、河原温へのオマージュとしてのメールアート private print postcard の制作と展示を、美術館等で行う。この展示は、すでに2017年10月にかまくらブックフェスタの会場の一つであった由比ヶ浜公会堂での展示に続くもので、今後も2018年8月にノルウェーの美術館 Vestfossen Kunstlaboratoriumでの展示、及び2018年10月から1月にかけて予定されている、DIC川村記念美術館における「平出隆と美術の言語」(仮題)展内での「河原温とドナルド・エヴァンズ」においても行う。 このような展示機会は、資料研究とともに展覧会図録の執筆や制作をも併せて行なうことになるため、研究は大きな推進を見込める。
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Causes of Carryover |
海外で、河原温の遺作と言えるArtist’s Book『I READ』が刊行された。100万円を超える高額な価格であったが、本研究にとって重要な位置づけとなる資料の為、当初予定していた平成29年度の研究費の使用計画を大幅に変更し、資料の購入及び調査を優先させたため、その調整差額によって、次年度使用額が生じた。 平成30年度は、10月から1月までDIC川村記念美術館で開催予定の「平出隆と美術の言語」展(仮題)の中に含まれるコーナー「河原温展」部分のための展示用資材費(約80万円)のほか、講演等録音文字起こし費用(約10万円)、研究成果取りまとめ費(約30万円)、書籍資料購入費(約28万円)として使用予定である。
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