2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02338
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
井上 雅雄 立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (20151623)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 新作2本立製作・配給 / 映画の量産体制 / 映画館の乱立と淘汰 / 新東宝の倒産 / 経営の合理化 |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度は、1960年代前半における映画産業の危機の実態とそれへの対応を、大映を中心とした映画各社の経営戦略・企業行動に焦点を合わせて解明するために、文献資料の収集・解読と関係者へのヒアリングを実施した。その結果、次の諸点が明らかとなった。第1に、1950年代中葉から始まった東映を嚆矢とする映画の新作2本立製作・配給―映画量産体制は、各社の製作能力の増強と映画館の激増を随伴することによって、映画の大量生産・大量配給・大量興行の連鎖システムを作り出す。が、このシステムは、高度成長下、可処分所得の増大による人々の消費行動―時間・空間消費の態様の変化に対応することができないままに維持され、その結果、1961年に経営が弱体化していた新東宝が倒産する。第2に、1950年代中葉のいわゆる映画産業の戦後「黄金期」においても、急増する映画館相互の競争の激化とフィルム賃貸借契約の特徴によって、全国の映画館の8割は赤字経営を余儀なくされていた。1960年代に続出する映画館の倒産・廃業は、映画産業の危機がその最も弱い環である興行面において顕在化したものであった。そして第3に、需要が落ち込んでいるにもかかわらず維持されたかの連鎖システムは、それゆえに映画の「過剰」という現象を常態化し、斯業の危機を増幅する要因となった。1960年代に顕在化した映画産業の危機とは、これらの諸要因の複合によるものであったが、注目すべきは、かの連鎖システムを最初に作り上げ、主導した東映が、その連鎖の最後の環である大量興行が大量消費(=大量観客動員)に結びつかなくなった後も、頑強にこのシステムを維持し、他社も競争上それに追随せざるを得ないままに危機が深刻化していったということである。それは、日本の映画産業における秩序なき企業間競争の結果というべきであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既述のように、1960年代前半の映画産業の危機の原因を解明するために、当初当該期に限定して調査研究を始めたが、しかし斯業の危機を招来した最も重要な環境的条件は、戦後「黄金期」といわれる1950年代中葉に始まり、同後半に確立した上記連鎖システムであることが判明したため、50年代中葉の業界の動態―産業組織と企業間競争の制度及び構造を幾分立ち入って調査・研究せざるを得なかった。この結果、1960年代の分析にやや遅れが生じたことは否めない。また、当初予定していたヒアリング対象者が、体調不良と逝去によってできなくなり、結果的に2名に限定されたことも遅滞の原因として挙げておくべきであろう。但し、戦後「黄金期」の分析が、一部論考として一定の結実をみたことは、今年度の研究に有効に作用するものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の調査研究は、まず執筆途中の戦後「黄金期」における映画産業の動態を問題点とともに明らかにする作業を仕上げた後、過年度不充分であった1960年代前半期の業界動向について、大映を中心とした各社の経営戦略と企業行動を明らかにする。次に、映画産業の危機が深刻化した1960年代後半期の各社の動向を調査・分析する。その場合、次の点に留意する。新たな路線を開拓して一定の安定性を維持することができた東映と東宝に比して、危機が深刻化した大映・日活・松竹は賃上げの抑制と人員整理などの経営合理化策を実施するが、前2社と後3社の危機への対応の違いを規定した企業内的要因は何か―企画政策、作品路線、営業戦略、興行政策等の違いに焦点を合わせる。また後3社の労働組合による経営合理化への対応の内実と、比較的業績が安定していた東映での60年代半ばの労組委員長の解雇と組合分裂など労務管理政策の実態について調査を進め、映画企業における経営危機と労使関係の変化の内実を明らかにする。
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Causes of Carryover |
先に述べたように、当初計画していたヒアリングが対象者の事情で一部に限定されたために、旅費等において未使用額が出たことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、文献・資料の収集とともに、できるだけヒアリングを実施することで、当初計画を遂行するように試みる。
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