2018 Fiscal Year Research-status Report
アフリカの彫刻家エル・アナツイの見直しと脱欧米中心的な新しい美術論の創出
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16K02339
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
川口 幸也 立教大学, 文学部, 教授 (30370141)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アフリカ / ミュージアム / 表象 / 美術 / 文化 / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年3月にアメリカ国内三都市で以下の通り、アフリカの同時代美術と、アフリカ系移民の歴史、文化の展示について、調査をした。 まず、東部のニューヨーク、メトロポリタン美術館では、エル・アナツイの布状の作品が、現代美術の展示室と、アフリカの伝統工芸の展示室の2か所に分かれて展示されていた。同一のアーティストの同じような作品が、現代美術と伝統工芸という異なる文脈で展示されるというのは、欧米のアーティストには一般に見られないことである。 次に、南部のルイジアナ州立博物館では、ハリケーン・カトリーナによる災害と、ニューオーリンズを中心とするルイジアナ州の歴史、文化の展示を調査した。この地域ではアフリカ系の存在がいくつかの面で大きいにもかかわらず、彼らの受けた被害や、あるいはこの地域における歴史や文化面での立場、役割が特に大きく語られていたわけではなかった。 一方、西海岸のサンフランシスコでは、アフリカ系移民博物館で、美術展の調査を行った。同展は、全米のコレクションから借用した作品による企画展であるが、展示されていた作品の内容、構成は、近くにあるサンフランシスコ現代美術館の様子とはかなり違っていた。この博物館の特性が大きいのだろうが、アフリカ系の歴史、文化が強調されていた。 調査の結果、総じて、アメリカでは、今も、アフリカの同時代美術は、欧米の現代美術とは微妙に区別されて展示されているということができるだろう。また、アフリカ系アメリカ人の歴史や文化、美術も、同じく独自の空間で、独自の文脈においてかたられている。今後、こうしたアフリカ、およびアフリカ系移民の歴史や文化、美術の展示の在り方がどのように変わっていくのか、引き続き注意して見ていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度上半期は、勤務先の仕事で、4月初めから9月半ばまで半年間、パリに滞在し、フランスを中心にしたヨーロッパにおける歴史、文化、美術のコレクションと展示について研究調査した。そのため、これまで、7月から8月にかけて、ナイジェリア南東部のンスカにエル・アナツイの工房と自宅を訪ねて各種のインタビューなどの調査を行ってきたが、2018年度は先方、エル・アナツイとの日程を調整することができず、現地を訪ねることができなかった。そこで、3月に関連の調査として、アメリカにおけるエル・アナツイ作品の収集展示と、アフリカ系移民の文化、美術展示に関する調査を行った。 これらのことを踏まえて、本研究の期間を2020年3月末まで一年延長し、2019年度7月から8月にかけて、ンスカにエル・アナツイを訪ね、アナツイの新しい展開に対応するとともに、これまでの調査結果の不足分を補足することとした。なお、すでに期間延長に伴う必要な手続きは終了し、承認されている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、7月から8月にかけての一定期間、ナイジェリアのンスカにエル・アナツイの工房と自宅を訪ねて、アナツイ本人はもとより、そこで働く職人、また町の人びとに、インタビューを実施する予定である。これにより、これまでの調査で明らかになったことを確認、補強するとともに、新しい展開についての不足分を補充する予定である。 こうして、エル・アナツイの仕事の全体像を再構成し、それが、(1)まず現地のローカルな歴史、文化などの文脈においてどのような意味をもっているか明らかにし、次いで、(2)欧米のアートマーケットや博物館、美術館、はては現代美術の歴史といったグローバルな文脈に、どのような変化をもたらしているかを考察する。 幸い、2019年度は、8月末に第7回アフリカ開発会議が横浜で開かれることもあって、メディアにおけるアフリカへの関心は例年になく高い。とくに、以前のように、野生動物や伝統舞踊、あるいはエイズや飢餓問題だけではなく、経済成長や同時代の美術や音楽に対する関心が高まっている。こうした流れを追い風にしながら、日本におけるエル・アナツイの再度のまとまった紹介を視野に収めて、最終的な研究の成果をまとめていきたい。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況の欄で述べたように、2018年度、研究代表者は、勤務先の大学の仕事との兼ね合いから、4月から9月までパリに滞在して主に別の業務に従事した。このため、7月から8月にかけて、エル・アナツイとの日程を調整することができず、ナイジェリアのンスカにあるアナツイの工房と自宅を訪ねて、インタビュー等調査を行うことができなかった。したがって、2018年度内における本研究の終了をいったん先送りし、研究の期間を1年間、2019年度末までに延長することとした。これにより、残額が生じたが、これは2019年度の研究調査に充当される予定である。なお、期間延長の手続きはすでに終了している。
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