2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02357
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
本井 牧子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00410978)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 縁起絵巻 / 釈迦堂縁起 / 真如堂縁起 / 公助 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、16世紀に製作された社寺縁起絵巻のうち、とくに『釈迦堂縁起』について、成立圏の近接する『真如堂縁起』等をも参照しつつ、絵と詞書とを註釈的に読みすすめることで、作品の総合的な理解を目指すものである。 本年度は、研究代表者の本井牧子、研究協力者の柴田芳成、金光桂子両氏をはじめとする国文学、美術史の研究者の参加のもとに、2回の研究会を開催し、詞書の註釈的研究を進めるとともに、説話文学や美術史の研究報告を通じて最新の研究成果にかんする知見を得ることができた。 詞書については、説話文学や中世物語を専門とする担当者による輪読を進めた。詞書を精読するなかで、『釈迦堂縁起』が隣接する寺院の縁起や太平記などをも資料として用いていることが明らかになったことは特筆すべき成果である。また、歴史学や美術史の成果とあわせ読むことで、詞書に描かれる出来事と史実との整合性や齟齬等も浮かびあがってきた。さらに、絵巻成立当時における仏教界の動向を反映する可能性なども指摘されるなど、今後の詞書分析における重要な視角が提供された。 説話文学研究の立場からは、中川真弓氏によって清凉寺の栴檀釈迦像をめぐる伝承およびその展開についての研究報告があった。今後は一連の栴檀釈迦像譚の流れのなかに、『釈迦堂縁起』をどのように定位するのかが問題となる。 美術史の立場からは、山本聡美氏による『釈迦堂縁起』の詞書筆者である定法寺公助の手になる大念佛寺蔵「九相詩絵巻」にかんする報告があった。先行作品との比較により明らかになった大念佛寺本の特徴的なありかたは、『釈迦堂縁起』のありかたや公助との関係等をかんがえる際に有効な視点となる。 以上のような成果をもとに、問題意識を共有しつつ、多角的に作品の検討を進めることが今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)16世紀の縁起絵巻関連資料収集・整理・データ化 :本年度は、清凉寺関係の略縁起など、後世の資料をも含めた収集を行った。あわせて、歴史学や美術史の重要な研究成果にかんしても、研究会内部で情報を共有・更新する環境が整った。撮影予定の資料のなかには、関係各位と調整中のものもあるが、おおむね予定通りに進展している。 (2)『釈迦堂縁起』の註釈的研究:日本文学、美術史の研究者の参加のもと、研究会での輪読を行い、本文を精読するとともに、参照された文献の探索や、関連史料との照合といった基礎的な作業をも進めている。 (3)定法寺公助に関する調査・研究:大念佛寺蔵「九相詩絵巻」等、公助のかかわった資料をも視野にいれつつ、調査を進めている。 (1)(3)の成果が、本研究の中核をなす(2)絵と詞書との註釈的研究に有機的に活かされており、その意味で順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)16世紀の縁起絵巻関連資料収集・整理・データ化 :製作時期の近接する縁起絵巻をはじめとする資料収集を継続する。 (2)『釈迦堂縁起』の註釈的研究:平成30年度も2回の研究会を開催して、詞書の精読および関連する研究成果の発表の場とする予定である。 (3)定法寺公助に関する調査・研究:公助が関与した著述をも対象とした調査を継続する。
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Causes of Carryover |
(理由) 一部の資料の撮影にかんして、所蔵先、寄託機関との調整中のものがあるため。 (使用計画) 調整終了次第、執行予定である。
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