2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K02369
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
中尾 健一郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (30511662)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 松ヶ岡文庫本 / 和学講談所 / 温古堂文庫 / 勝海舟 / 府城沿革 / 太田道灌 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、松ヶ岡文庫所蔵の『梅花無尽蔵』について行った調査をもとに論文を発表し、併せて『梅花無尽蔵』の各種零本を調査した。 松ヶ岡文庫は日本を代表する禅の研究家・鈴木大拙の旧蔵書を収める研究機関である。沢庵宗彭が書き写した『臨済録』(積翠軒文庫旧蔵)をはじめ、禅に関わる貴重書を多く収蔵することで知られている。同文庫に『梅花無尽蔵』があることは『国書総目録』によって知られるが、これがいかなる系統に属するものかは全く不明であった。そこで、平成29年度に松ヶ岡文庫にて二度にわたって調査を行った。その結果、同書は塙保己一の和学講談所、保己一の子忠宝の温故堂文庫の旧蔵書であり、系統的には名古屋市蓬左文庫蔵『梅花無尽蔵』に連なるものであることが判明した。 また松ヶ岡文庫本には、和学講談所と温故堂文庫の印のほかに「勝安芳」の印が見えるが、これは幕末の幕臣勝海舟の蔵書印である。したがって、松ヶ岡文庫の有に帰する以前、海舟がこれを所持していたことがわかる。その上、海舟は明治維新後に宮内省の要請をうけて『府城沿革』を編纂する際、自らの蔵書である『梅花無尽蔵』を活用したことが調査によって明らかになった。 平成29年度、『江戸名所図会』に引用されている『梅花無尽蔵』が、榊原芳野の旧蔵書であることを突きとめ、『梅花無尽蔵』が江戸の地誌の編纂に活用されている実態を明らかにしたが、『府城沿革』にも同様に江戸城の創始者太田道灌に関わる記事を中心に『梅花無尽蔵』が用いられていることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度までの成果として、二種類の東京大学本、同じく二種類の国立国会図書館本、蓬左文庫本、松ヶ岡文庫本、続群書類従本等を調査し、七巻本の『梅花無尽蔵』はおおむね松浦静山旧蔵書と尾張徳川家旧蔵書のいずれかに分類できることが明らかとなったことが挙げられる。ここまで、抄録本を除いて七巻本の体裁を持つ『梅花無尽蔵』の調査をほぼ終えることができたことについては、予想した以上に進展していると言える。 その一方で予定より早く松ヶ岡本の系統が判明したことにより、これに関連する蓬左文庫本の解題の発表が遅れており、また新たに万里の旧抄本の存在が判明したことによって、本来発表予定であった他の『梅花無尽蔵』諸本に関する研究成果の公開が、2019年度以降に持ち越しになっている。 平成30年度の調査としては、当初、無窮会所蔵の『梅花無尽蔵』零本を調査の予定であったが、諸般の事情により調査の環境が整わなかった。そこでやむを得ず、東京大学史料編纂所所蔵の写真帳を利用した。原本の調査については他日に実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、『梅花無尽蔵』の伝本を研究するに際しては、七巻本の成立時点を分けて、成立以前の抄本と成立以後の抄本を、それぞれ研究する必要があると考えている。後者については、零本を含めて調査をほぼ終えつつあるが、前者については未見のテキストが複数存在することが判明したことから、まだ十分な見通しが立てられていない。 そこで今後は、『梅花無尽蔵』の旧抄本を中心に調査研究を行う。それと並行して、まだ未発表の論考を順次公表していく予定である。
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Causes of Carryover |
無窮会図書館が昨年より改装中であることにより、予定していた同館所蔵の『梅花無尽蔵』の調査に赴くことができなくなったため、その分の旅費が生ぜず、また調査に必要な目録の購入も、先方の都合により実現しなかったことによる。 未使用分は、次年度の旅費および研究の遂行に必要な物品の購入に使用する予定である
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