2021 Fiscal Year Annual Research Report
Extant Manuscript Research on Baika Mujinzou by Banri Shuuku
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16K02369
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
中尾 健一郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (30511662)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 杏雨書屋本 / 板坂卜斎 / 徳川家康 / 紀州徳川家 |
Outline of Annual Research Achievements |
七巻本の『梅花無尽蔵』には、大きく分けて東京大学所蔵の七巻八冊本(以下、「東大本」と略記)の系統と、松ヶ岡文庫所蔵の七巻六冊本の系統がある。前者の系統のものには国立国会図書館が蔵する土井鶚軒旧蔵本と榊原芳野旧蔵本、及び早稲田大学図書館所蔵本があり、後者の系統のものには取り合わせ本である名古屋市蓬左文庫所蔵の七巻六冊本(以下、「蓬左本」と略記)がある。その他、東京大学にはもう一種、七巻四冊の謄写本があり、これは松ヶ岡文庫本・蓬左本に本文の系統が近い。 報告者はこれまで上記の写本の系統を明らかにしたが、近年このほかに公益財団法人武田科学振興財団杏雨書屋に七巻三冊本が蔵されていることに気づいた。杏雨書屋所蔵本(以下、「杏雨本」と略記)は、内藤湖南の旧蔵書であり、早くは『恭仁山荘善本書影』(1935年)に書誌が記され、山鹿誠之助氏により解説が著されていた。しかるに『国書総目録』からは漏れており、『梅花無尽蔵』の研究史においてその存在は埋没していた。 偶然、杏雨本の存在に気づいた報告者は、杏雨書屋にて調査を行い、この写本が徳川家康に仕え、その後紀州徳川家の御典医となった二代目板坂卜斎の旧蔵書であり、遅くとも卜斎の没年である明暦元年(1655)年には成立した、現存する最古の七巻本であることを論証した。 杏雨本の本文は、系統としては東京大学所蔵の七巻八冊本に近いが、文字が脱落した箇所が一致しない。成立時期が東大本より早く、本文の異同を調査すると、東大本とその系統の諸本よりも正確であり、『梅花無尽蔵』のテキストとしてもっともすぐれている。これらのことを論文にまとめて公表した。
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