2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K02370
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Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
岸本 理恵 尾道市立大学, 芸術文化学部, 准教授 (10583221)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国文学 / 書誌学・文献学 / 古典籍 / 書写 / 藤原為家 |
Outline of Annual Research Achievements |
和歌の家としての御子左家が家の本として歌集や歌書を書写する活動において、藤原俊成・定家と受け継がれた監督書写という方法が、さらにその次の世代の為家へと受け継がれていたであろうということは、断片的に個別の資料とそこからの推測とによって想定されてきた。しかし、個々の資料がどのような関係にあるのかということや、指摘されている特徴が横断的に比較した場合はたして成り立つのかという検証はされないままである。それらの個々に推測的に指摘される資料を集積して体系的に捉え、為家による監督書写の実態を解明していこうとするのが本研究のめざすところである。 それにむけて、古筆見の鑑定ではなく現代の研究者においても為家の関与した写本と指摘されている『興風集(七十四首本)』『興風集(二十二首本)』『実方中将集(素紙本)』など12点について素紙・枡形本と唐紙本とに区分して、具体的に1点ずつをとりあげながら、横断的に比較して関係性を明らかにした。先行研究によって揺れていた判断を一つにまとめ、為家が書写に関わった家の本としての私家集の特徴の一端を明らかにした。すなわち、複数の人を書写に動員する監督書写という方法のみならず、私家集を素紙による枡形本として制作することは俊成・定家の写本と同じでありまさに家の本を継承していく活動であることが確認できた。そして、為家は受け継いだ家の本を親本として新たな写本の制作も行なっている特徴が見えた。また、全丁に美しい唐紙を用いた写本は、素紙による枡形本とは目的を異にしているようには思われるが、書写としては素紙・枡形本と同じ筆が確認でき、方法としてはやはり為家の監督書写によるものであると確認できたが、こうした唐紙を用いた書写やその他新たな課題もまた見出すことができた。これらのことを論文にまとめ発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
藤原為家が書写に関わった複数の写本について、これまで個別に解説されていたが、それぞれに関連のあることを見出し論文にまとめた。写本の形や筆跡による書写者の分類をおこなうことで、個別の写本に関連を見出すことができ、料紙や書形の異なるものであっても同一の場所で書写されたものであることを確認できた。これをもとにしてさらに多くの写本を包括的に分析していく基礎ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
さらに多くの写本について1点ずつ分析しながら為家監督書写と認定できる写本を増やし、現在までに明らかにした基準を拡充しつつ、為家の書写活動の特徴を明らかにしていく。特に、装飾料紙を用いた写本については俊成や定家の写本とは異なっており課題が多い。これに具体的な説明ができるような方向性を見出していきたい。
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Causes of Carryover |
実見調査に行く機会が当初の予定よりも少なく、また日程調整の結果次年度(令和元年度)に繰り下げた件もあるため、旅費の支出が少なかった。また、当初はアルバイトの雇用を予定していたが、当年度は必要が生じなかったので翌年度に使用すべく次年度使用額として残すこととしたため。
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Research Products
(2 results)