2019 Fiscal Year Annual Research Report
古代寺院における「伝」と「像」の制作活動-長安と平城京の諸寺院間ネットワーク-
Project/Area Number |
16K02373
|
Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
藏中 しのぶ 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (40215041)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 墓誌 / 碑文 / 大安寺 / 空海 / 淡海三船 / 南総里見八犬伝 / 文体 / 賛 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の伝記文学は氏族内部で生成した墓誌・墓碑に始まり、国家的な『続日本紀』官人薨卒伝へと展開するが、人物描写を伴う詳細な「伝」は、仏教的な高僧伝に始まる。師僧が亡くなると、弟子たちは師の「肖像」と「賛」を制作した。日本の伝は、「肖像」に対する「賛」の「序」として成立したのである。 そこで、渡来僧が住した官大寺大安寺を軸とする平城京の諸寺院間ネットワーク《大安寺文化圏》を軸に、第一に、伝の文体によって、通時的な《東アジアにおける伝・賛と肖像の文化史》を構想するに至った。①近江朝、②聖武朝の大安寺を軸とする「碑文」体の伝の成立期、③平安初期の三期区分を想定し、共時的には聖武朝廷の造寺造仏活動を対照した。 第二に、「賛」の観点から、青木正児氏による中国・戦国時代に発祥した題画文学の四分類(韻文;画讃・題画詩、散文:題画記・画跋)を踏まえ、後藤昭雄氏による平安朝漢詩文の《讃の系譜》を《伝・賛と肖像の文化史》によって再検証した。日本の賛(讃)の初例は大同元年(八〇六)空海将来「真言五祖師像」とされるが、①人物の像賛は、八世紀後半の大安寺三碑『南天竺婆羅門僧正碑并序』に溯る。②題画詩の初例は、嵯峨天皇による正倉院沽却山水画屏風を天台山図に見立て、『文選』「遊天台山賦」五臣注に依拠した『文華秀麗集』「冷然院各賦一物」詩群に溯る。①肖像の「賛」と②題画詩は融合して《伝・賛と肖像の東アジア文化史》を形成し、和漢の障屏詩・屏風歌をはじめ、中世以降、掛物としても普及した禅画・俳画等、多様な展開を遂げる。曲亭馬琴撰『南総里見八犬伝』の《八犬士の伝・賛と肖像》はその達成点である。 第三に、出典論と翻訳論は表裏一体である。イタリア・フランスとの共同研究と国際シンポジウムを開催し、『唐大和上東征伝』『南天竺婆羅門僧正碑并序』注釈を英訳し、肖像・画像と文学の交流について広く国内外に発信した。
|