2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02374
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
今井 久代 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90338955)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木谷 眞理子 成蹊大学, 文学部, 教授 (00439506)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 狭衣物語 / 異本系本文 / 本文の改変 |
Outline of Annual Research Achievements |
巻一に関しては、ほぼ注釈作業を完了している。今後は、本文の提示の仕方など、全体の統一を図り、他系統の諸本との比較など、細かい部分の考察を補足する。最終的には、刊行をめざす予定である。 また、単発的な形であるが、本研究に関わる論文(異本系本文の特徴を、他二系統と比較して明らかにする)を学会誌に投稿して、発表している。 巻二に関しては、まず伝民部卿筆本(高野本)について、影印の写真をもとに、『校本 狭衣物語』の本文と比較しながら翻刻を完了させており、翻刻が公刊されている九条家旧蔵本(大島本)との異同を確認している。 続いて同じく鎌倉時代の写本で、異本系本文をもつ、平瀬本の翻刻を進めてきた。ただし、平瀬本は従来指摘があるように、流布本系との混態本文となっている。なぜ混態本文となるのか、その混態程度の解明も興味深いところであるが、やはり異本系本文についての研究を優先すべきであるので、高野本の本文がある箇所(前半ぐらいの分量)については、高野本を底本としつつ、主に大島本との異同を確認しながら、注釈作業を進めることとした。高野本のない箇所については、大島本を底本としつつ、平瀬本が異本系本文を持っている箇所については、平瀬本との異同を視野に入れて本文を校訂する。 ついで、巻一と同様の注釈作業や、他系統と比較した場合の差違など、異本系本文の特徴について考察する。異本系本文には、独自の語彙などが見られるので、そうした特異な語彙についても注目していく。 巻一巻二とそろったところで、まったく違う写本(巻一は伝慈鎮筆本と伝為家筆本、巻二は高野本と大島本)に残っている異本系本文について、巻を超えて統一的な内容になっているか、人物造型のあり方などの特徴が一致するかを考え、狭衣物語』異本系本文の世界を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
巻一の注釈と研究はほぼ終了したものの、巻二の研究がまださほど進んでいない。 巻二については、南北朝期の書写と推定されている九条家旧蔵本(大島本)の翻刻は公刊されているものの、鎌倉初期書写とされる伝民部卿筆本(高野本)や、鎌倉中後期書写とされる平瀬本の翻刻は公刊されていない。『校本 狭衣物語』に載せられている翻刻は、この諸本の異同の多種多様さのために、ある部分における局面的な近さや遠さは確認できても、全体としてどのような本文をもった作品となっているのか、全体像を確認することが難しい。このため、影印をもとに両者の翻刻を完了し、そのうえで本文の異同を含めて考究してゆくのが理想であるが、この翻刻作業が大きく遅れている。すなわち、高野本は終了したが、平瀬本はまだ最初の部分である。このため、巻二の注釈作業はまだ開始してすぐといったところである。 また、完了した巻一についても、公刊を目指すため、全体的な統一等の見直しを図る必要がある。巻二が進むにつれて、巻一の内容との照応などが明らかになりつつあり、巻二の注釈作業の進捗状況とその成果をふまえながら、もう一度巻一の注釈内容について確認する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
巻二の注釈作業を遅らせている平瀬本の翻刻であるが、この本の全容解明は本研究の課題ではないので、残念であるが、高野本が残っている部分に関しては、高野本と大島本の比較対照によって本文を評価していく形とし、高野本のない部分以降について、平瀬本と異同を確認することとする。 また、研究協力者の協力を仰ぎ、平瀬本の必要部分の翻刻を完了させる。 すでに翻刻した平瀬本の本文をみる限り、異本系本文となっている箇所は非常に高野本に近く(大島本よりも近いか)、流布本などに近い箇所は、そっくり流布本系本文になるようである。つまり巻一の紅梅文庫本のように、異本系本文の痕跡を残しながらも独自に大きく改変されている、といった形ではなく、継ぎ接ぎ本文の印象である。ゆえに、流布本などでない部分はかなり確かな異本系本文と考えて、大島本の本文を評価する際の助けになり得ると推察している。 このようにして、今後は巻二の注釈作業の方に主として力を注ぎ、少しでも目標に近いところまで注釈を進めておきたい。また巻一部分についても見直し作業を完了させて、公刊をめざす。この他、単発的な形で、学会誌で研究論文を発表する。
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Causes of Carryover |
翻刻協力の謝礼については、伝民部卿筆本の翻刻は年度内で終了したものの、引き続いて平瀬本の翻刻を協力してもらう関係上、両者まとめた形にする方で謝礼を支払う形を取ることとし、2018年度に持ち越した。 写本については、巻一の伝慈鎮筆本を確認しにいくにあたり、巻一の翻刻注釈において疑義が生じた部分について、まとめて見に行く必要があると考え、再度翻刻注釈を見直して確認すべき箇所をピックアップする必要があり、2018年度に持ち越した。 書籍の購入等物品の購入についても、必要な書籍を見定めたうえでリストアップしてゆく作業が遅れてしまったため、2018年度に持ち越した。
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Research Products
(2 results)