2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02378
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Research Institution | Niigata University of Management |
Principal Investigator |
西澤 一光 新潟経営大学, 経営情報学部, 准教授 (30248885)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本文学 / 古代文学 / 万葉集 / 思想史 / 江戸文学 / 歌学 / 国学 / 文学一般 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、契沖の『万葉代匠記』に関して5つの分野に関して研究を進めた。 1.契沖と同時代の文献ならびに研究文献をつきあわせることによって、『代匠記』の成立年代、成立事情について基礎的な知見を固めた。2.契沖の書簡・詠歌、同時代の文献などを通じて契沖の閲歴と『代匠記』成立の関連について展望を得た。3.文学史上ならびに思想史上、契沖ならびにその主著『万葉代匠記』がいかに評価されてきたかについて江戸期、明治期、大正期、昭和期にわたって文献を収集し、整理した。4.契沖の『代匠記』をいちづけるための思想史について理論的な基礎を固めた。5.高岡市万葉歴史館で3次、大阪市中之島図書館にて2次にわたって、契沖『代匠記』の初稿本の写本調査を行い、写本の系統と書き込みなどについてデータを蓄積した。 1~4については、平成29年1月28日に上代文学研究会(所:東京大学駒場キャンパス14号館6階、時:2時~6時)において「契沖研究のための基礎的考察1=契沖を捉える視座=」という題目で発表した。5に関しては、初稿本の「総釈」と『万葉集』の巻一・二の歌の注釈を読むことによって、『代匠記』の思想を読み取りながら、同時に、そこへの書き込みを分析することによって、『代匠記』という書物が弟子への講義をはさみながら、「初稿本」から「精撰本」へと動態的に発展しつつある状況を分析しつつある。 本研究では、『代匠記』の文学史・思想史上の画期性を明らかにするために、『代匠記』の動態的成立状況を明確化するという方法をとっており、その方向性が正しいことを裏付けるデータが積み重なりつつある。 上記のような研究の積み重ねと並行して、研究成果を広く一般ならびに専門家に公開するために2017年2月よりインタネットサイトを立ち上げて、短い論説の形式で原稿をアップしつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究連携者・研究協力者との討議や上代文学研究会における研究発表を通じて、江戸期元禄前後の文化状況のなかで、「時代の知」という視点から契沖の万葉研究を位置づけるという方法が評価され、本研究における独自の「思想史」概念の提示に結びつけることができた(ネット上に発表)のは大きな収穫だった。契沖の『代匠記』の万葉歌の注釈方法が中世の歌学に対してもった革新性ということについて従来とは異なる地平から記述するための見通しが得られたのである。 また、研究協力者の多大なる支援により、参考文献を効果的に収集し、写本を何度にもわたり閲覧する機会を作ることができた。大阪市中之島図書館の古典籍の担当者からも大きな支援を受けることができた。そのため、現存の『代匠記』の初稿本の写本には、契沖が生前に行った唯一の講義の書き込みや、契沖の手元の『万葉集』への契沖の書き込みが反映されている可能性があきらかになりつつある。このことは、当初考えていた以上の成果だと考えている。 とりわけ非常に大きな成果であったのは、大阪市中之島図書館所蔵の『代匠記』が契沖の直弟子2名およびその他著名な国学者の書入れを豊富に含んでいることが判明したことである。ただし、現状では、これをデータとして保存はしているが、精査分析にかける段階には至っておらず、この点で「おおむね順調」とい評価になると考えている。 しかしながら、当初は2年目に予定していたインターネット上への成果公表を前倒しにして、本年度からスタートすることができたことは、所期の目的の推進という観点からみて順調な経過である。また、当初狙っていた契沖に関する研究文献コーパスについては、目下整備が進んでおり、2年目には公表できる目途がついていることなどをも考慮に入れて、全体として研究の進捗状況は「順調」ないし「おおむね順調」という評価になるかと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は1.『代匠記』の思想史上の位置づけ、2.『代匠記』の初稿本・写本の分析、3.研究成果の公開を3本柱としながら、『代匠記』のテキストの読解をさらに進め、その思想史的な背景と歴史的意義を明確にしていく心算である。 1の『代匠記』の思想史上の位置づけは、さらに、(1)契沖の閲歴の解明、(2)契沖における歌学の意義、(3)契沖における真言密教の意義、(4)研究文献コーパスのさらなる拡充、(5)江戸前期の文化状況と知的状況の分析、(6)思想史的方法論の精錬などの、各論的な研究を絡めながら精密に進めていくことにする。 2は、前年度に入手した資料を読み込み、特に写本の書き込みを分析することを通じて、『代匠記』の動態的な発展の状況について明確化していく。その提示によって契沖の注釈における思想の深化が具体的に示されるものと予想される。また、『代匠記』の写本調査はまだかなり研究の余地があるらしく思われるので、今後も継続して行っていく。 3は、研究会・学会での発表と同時に、初年度に立ち上げたインタネットサイト上に、逐次明らかになった所見を公開するということに力を入れる。契沖研究の文献コーパスを載せることと貴重な同時代文献の翻刻も含めて、後進の研究の便に寄与したいと考えている。
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Causes of Carryover |
年度末の調査旅行等に要した使用額と予算残額とのかねあいで、年度末に要した費用を次年度の使用額の枠組みで支出することにした結果、現状の残額が発生したということであり、学内の会計処理上の事情によるものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
標記の残額については、次年度の予算が使用可能になった時点で、初年度末に要した費用の支出のために使用することになっており、事務方と合意している。
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Remarks |
上記は、日本学術振興会科学研究費補助金による助成事業として実施する研究内容について広く社会に公開し、情報の共有にもとづく学術研究の発展をはかることを目指している。研究の進展につれて、一般公開になじむ資料や論考を簡潔な形式で発表し、古代研究の基礎的な分野に携わる人々に有益な情報を公表していくつもりである。
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Research Products
(2 results)